.◆◆第3話:『眼鏡越しの空』��

「とーこさん、誕生日おめでとー!!」
一学期の終業式の日、大掃除を終えたあたしが教室に入ってくると、
梢・楓・絵里・麻衣があたしを取り囲む。次々に差し出されるプレゼント。
 7月20日。今日あたしは17歳になる。
「びっくりした?瞳子ちゃん」美和子がにこにこしてあたしを見る。
「もう、びっくりしたわよー。みんな何にも言わないから絶対忘れてると思ったし!あんたたちも人が悪いわねー」 
「ごめんねー。・・・と言うわけでこれ、あたしからのプレゼントね。それから、お母さんが帰りにうちに寄ってくれって。例によって毎年恒例、瞳子ちゃんのケーキ用意して待ってるから」
「ほんと?うれしいー」あたしのほおがゆるみきったその時。
「お嬢さんがた、もうホームは始まってるんだがな・・・。さっさと席つけ、おまえら」いつのまにか本並先生が教室に入ってきていてあたしの頭を出席簿で軽くたたく。

 「せんせー、今日とーこさん誕生日なんだよ」
 通知表をもらい、ホームルームが終わり。またあたしの席のまわりに集まってくるみんな。近くにいた本並先生に絵里が話しかける。
「―知ってるよ」本並先生があたりまえのような顔で答える。
「うっそ―っ!?」騒ぐみんな。
「あやしー。本並先生ってば。さてはとーこさんを毎日のよーに呼び出すのはデートのため?」冷やかす絵里や麻衣。
「ばぁか。瞳子の姉ちゃんが俺と同級生なの。俺と瞳子は昔っからの知り合いだもん。」平然と答える先生。少しがっかりしたけど、うれしかった。あたしの誕生日を覚えててくれたこと、それからみんなの前じゃ絶対に名字でしか呼ばないのに「瞳子」と名前で呼んでくれたこと。
「おいおい瞳子、そんなにじ一っと俺を見るなよ照れるじゃねーか」あたしの視線に気づいた先生が照れた表情でいう。
「瞳子(ひとみこ)とはよくいったもんだよなぁ。牧島の親はぴったりの名前をつけたよな。なんちゅうか、瞳子の瞳っていいんだよな。力強いって言うか。視線に有無を言わせない強さみたいなのを感じないか?稟としててさ」そーいえばそうだね、と美和子がつぶやく。
「そうそう!初対面だととーこさんって近寄りがたい雰囲気するんだよね」絵里もうなずく。 
「目は口ほどにものを言う、ってね。とーこさんにぴったりよ」
「そんなにあたしって目つき悪い?」あたしの問いに
「ううん、そうなんじゃなくてねえ。とにかくね、まず目に視線が行くぐらい印象的な瞳なの。 ・・・あのね、あたし思うんだけど、瞳子ちゃんはね、眼鏡はずして化粧すれば瑶子さんに負けないくらいいい女になるって」美和子がまじめな顔で答えてくれた。
 そうだな、と先生がうなずく。期待しちゃいけない、ってわかってるけどすごくうれしかった。

 その夜、珍しくお姉ちゃんもお父さんも残業しないで家に帰っていた。
「一年にいっぺんの『お約束』だからな」ビール片手に上機嫌の父。あたしとお姉ちゃんの誕生日には必ず家族全員そろってお祝いしてくれることになっている。普段はお姉ちゃん中心に回っている牧島家だけど、誕生日だけはなぜか平等にお祝いしてくれる。
 ごちそうをたいらげ、プレゼントももらい。あたしが幸せな気持ちでお茶を飲んでいたその時、玄関のチャイムが鳴った。出ていってドアを開けると、そこには
きっちりスーツを着こなした本並先生が立っていた。
 すぐにお姉ちゃんがとんできて、先生を招き入れる。母に代わって応接間にお茶を運び、あたしはそっとドアに耳を近づけて中の話を聞く。
  
 「本並くん、いつもうちの娘達が世話になって・・・今日はどうしたんだね」 
 本並先生は大学教授の父の教え子だ。緊張しているのか、しばらく沈黙が続く。やがて意を決したのか、早口の、でもはっきりと良く通る声がドア越しに飛び込んできた。
「あの・・・牧島教授・・・娘さんと、瑶子さんと結婚したいんです。僕たちは学生時代からいいお付き合いを続けてきました。そのことで今日はお伺いしたんです」




  

 その瞬間、あたしの中で、何かが壊れていく音がした。






                       『眼鏡越しの空』�い紡海�。

2002年04月15日(月)◆◆


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