.◆◆第5話:『GROWIN'UP』 ��

 「嶋田さん・・・それマジ?」リーダーの言葉に真っ先に反応するのはやっぱり浩司。
「こんなときに真顔で冗談言う奴がいるかよ」いつも明るいムードメーカーであるリーダーの顔がいつになく真剣で、あたしたちは彼が本気で言ってるんだと感じて、何も言えなかった。
「本番は8月だから高校生組も浅倉も大丈夫だろ?」
リーダーの話と言うのは、今のメンバーになってもう2年以上たったから、そろそろオーディションに挑戦してみないかというものだった。学生のあたし・麻里・浩司と自分の家(楽器屋)勤務のリーダーはいいけど、今年から藤女の音楽の先生になった浅倉さんのスケジュールだけが心配だ、とも言った。その話に反対する奴などいるわけなくて、こうして本番へ向かっての猛練習が始まった。
 
 「いやぁー、リーダーも人が悪いよなぁ。こんな大事なこと今まで黙ってるなんて」その日の帰り道。麻里は彼氏でもある浅倉さんに送ってもらうことになって、あたしと浩司は駅へ向かって歩いている。
「・・・しょうがないよ。あたし達は別にいいけど、浩司も試験・試験でそれどころじゃないし、何より浅倉さんが都合つかないもんね。なんてったって天下の地方公務員なんだから。」
「・・・確かにな。俺もどうかなりそうだよ、3年になったらこの試験漬けの日々。
進学するためとはいえ、きついぜ。だからって手ぇ抜いたら親も黙ってねーだろーし。バンドもやめろって言われかねないしな。いくらうちの親が放任だからって」
「・・・ちゃんと考えて、がんばってんだね。いかに親にばれないようにするかって、それだけしか考えてないような気がする、あたしも麻里も。」
たった一つしか違わないのに、自分のことをちゃんと考えてる浩司。口だけじゃなくて実際に頑張って、成績だって(この辺じゃ名の知れた進学校の)城山高の中でもトップクラスだし。
「おまえ、今はいいけど、ばれたときはもっと大変だぞ。麻里ちゃんもいるんだから、理解してもらえるようにやんないと。男だったら理解してもらえなくても勘当されてもそこそこやっていける  けど、女の子だとつらいぜ、きっと。」 
 
 「・・・ところで浩司、進路どうするの?・・・まあ浩司ならどこの大学でも大丈夫って気がするけど・・・」 
 「うん、大学はどこか決まってないんだけど、いちお国・公立狙い。来年は尚登も受験だから親に余計な負担させたくないしな。学校終わったらリーダーの所でバイトさせてもらう事になってるんだ。楽器代も欲しいし、レッスンもさせてもらえるし。一石二鳥だろ?」
「んじゃあ、秋からはもっと大変だね。国・公立志望組って補習があるんでしょ?」
「・・・・うん。みんなにゃー悪いけどちょっと練習量減らしてくれってリーダーに頼んだ。昨年の浅倉さんの教員試験の時みたいになるんじゃないかな。
だから俺は今度のオーディションにかけてるんだ。リーダーが言うにはここでがんばらないと次のチャンスはそうそうないだろうからって。
来年はおまえが受験だし、その次は麻里ちゃんだろ?バンドのせいでこけたなんて言わせたくないからって。自分や浅倉さんはちゃんとやりたい職に就いてるからいいけど、学生組には後悔しないようにやってほしいってさ。」
「・・・がんばろうねっ。どんな結果でもさ。後悔したくないよね」
「そりゃー俺のセリフだよ。・・・ったく。これが終わったら残ってるのは勉強漬けの日々だし。」
「あれー?さっきと言ってることが違うよー。何か弱気じゃない?」
「そりゃーぐちりたくもなるさー。しばらくギター断ちだぜ?学祭終わったら本格的に。俺くじけそーよ。何かおまじないでもしてくれん?絵里」少しすねたような、甘えたような浩司。
「何がお望みです?ご主人様」あたしはわざとふざけて答えたら。
「・・・・絵里ちゃんのちゅー。」突拍子のない要求に、辺りは薄暗くなりかけてるのに、ばれてしまうんじゃないかって思うくらい、顔が真っ赤になってるのがわかる。
「なーに言ってんの!こんなところでなに言い出すの!ばー・・・・」か、の言葉は浩司の唇に封じられてしまった。   

2002年06月13日(木)◆◆


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