酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年09月06日(金) 天使の囀り

 沈黙の人、貴志祐介、彼は今作品を書いているのだろうか? 新刊が出る出ると噂で聞くけれど、一向に世に出てくる気配がない。3作品も映画化されると、書かなくたってへっちゃらだいっ! って思ってるのかな。

 貴志祐介さんとの出会いは、 『黒い家』、 ただしブレーク前v 私は、「本に呼ばれた」のです。
 図書館とか本屋さんとかを歩いている時に、読んだことのない作家さんの 「本に呼ばれた」 経験ありませんか? 私が今まで本の方から呼ばれて手にして大ブレーク!したのは、桐野夏生さん 『顔に降りかかる雨』、 石田衣良さん 『池袋ウェストゲートパーク』でした。映画化にテレビ化しちゃった時には驚いたもんだなぁ。呼ばれた本は、きっとその本自体に人を惹きつける(呼ぶ)パワーが備わっているものだなぁと思います。

 『黒い家』 に呼ばれて読んで、私は美月を筆頭にかなりの人に言いまくりました。そののちブレークした時はブレークして当然だと思ったものです。あれは映画は今ひとつどうかしら (大竹しのぶの怪演は認めますが、Hシーンはいただけないねぇ)、 と思うけれどあの本はとにかくものすごかった! 私が、好きな作品は、『天使の囀り』 と 『青の炎』 です。 『青の炎』 は既に映画化ということなので、今回は 『天使の囀り』 をチョイスします。

 この物語は、とある伝染病にかかる (意図的に移される) と、自分のコンプレックスを突き詰められるか、自分が日頃から一番恐れていることを顕在化、実現して死に至るというおそろしいものです。心の病気は伝染しないけれど、この伝染病に羅漢するともう決して救いがない。メサイアコンプレックス(救世主願望)、 タナフォトビア(死恐怖症)、 アラクノフォビア(蜘蛛恐怖症)などなど。たくさんのコンプレックスと恐怖症のオンパレード。
 ここに新興宗教を絡め、人間の底知れない欲望、欺瞞などをあふれさせた上でラスト、カタストロフィィへまっしぐら。このラストがね、怖いのですよ。とてもね。ふ、ふふ、ふふふふふふ。
怖いというか私なら発狂する。

 ホスピスを仕事とするヒロインが登場するのですが、彼女と先輩女性の会話で心温まるところがあります。彼女が死に向かう患者さんのことで煮詰まっている時に、先輩女性が人間がネットワークを作るのはなぜかと聞きます。彼女は、情報収集と答えるのですが、先輩は毒されているわねぇと笑います。 人間がネットワークを作るのは、何かがあった時にまわりの人たちに少しずつショックを分担してもらってネット全体でぼわんと吸収するためのものなのよ と言うのです。文字通り 「網」 に過ぎないんですよね。ネットってものは。この物語が残酷であればあるほどこの先輩女性の言葉が心に残ります。救いが少ない物語の唯一の希望の光ですから。

 この物語が怖いところは、徹底的に人間の生理的嫌悪感に訴えてしまうところ。でも読ませる。どうなってしまうのだろうと最後までぐいぐい引っ張っていき、ラストとんでもないことに(笑)。
あのラストは・・・なぁ。ねぇ。
 作品としては読んで絶対に面白いです。是非お読みくださいませませ。
 そしてあなたにもしも天使の囀りが聞こえてきたら、ご用心。ご用心。もう遅いけどー。

 『天使の囀り』 1998.6.30. 貴志祐介 角川書店



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