酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年09月05日(木) 盤上の敵

  本に酔う、でも時として悪酔いをする本もある。私にとってトラウマをまざまざと思い出させたこの北村薫さんの 『盤上の敵』 は、そういうとんでもなく悪酔いをした本にあたります。それなのにきっと生涯忘れられない本の一冊。心に深く強く刻み込まれてしまったから。
あまりいいこと書けないです。

 自分のトラウマを思い出させたからと言って、この 『盤上の敵』 がつまらない本ではなく、心が痛いけれど北村薫さんらしい素晴らしい作品のひとつです。特にチェスを持ってきて、戦いの場面で物語をすすめるあたり、おじょうずだなぁと思います。 チェスってやりたいゲームなのですよー。ずーっとv

 物語で絶対的な悪の存在である Queenの黒の兵頭三季、彼女が怖い。私はブラックもホラーもピカレスクも大好きだけれど、この兵頭三季だけは怖くてたまらない。対する 白のQueenの末永友貴子を中学時代から、ただ 《壊してやりたい》 と思い続けるのですから。理由を持たないターミネーター女版ですね。たちが悪いことこの上なし。

 逃亡犯である 黒のKingの石割、友貴子の夫である 白のKingの末永純一。この4人の駒が物語をすすめていきます。 白のKingの純一は、テレビ用プロダクションにいて彼自身のやさしさを表すような作品を作る男。この 白のKingが頑張るのだ。頭脳戦ですからね。チェスは。
この戦いの結末は本でどうぞv

友貴子が、回想してこんなふうに語るところがあります。
「人にとっても憎まれたことがあるんです。そういう憎しみのエネルギーって目に見えるようでしょう」
ここらあたりがね、もう友貴子に対する同属嫌悪と言うか、思い出したくない過去を思い出してしまうと言うか。なんともやりきれない思いをしてひーひー言いながら読みました。読み終わって私は思わず美月に電話したくらい。情緒不安定になりそうで。美月すまなかった。3年前だわ。

この本で思い出した私のトラウマ。いい話ではありません。一応前もって。
高校時代、私は一年生の時から旦那と付き合っていました。旦那はものすごくモテル男だったので、付き合っている私は天狗にもなっていたし、いやな目にもあいました。プラマイゼロだったのです。そんな高校時代のある日を境に私は危うく引きこもりになるところでした。
うちの旦那を好きだったグループに呼び出されたのです。相手は10人以上。私はひとり。彼女たちが言うことは、意味をなしていなくて旦那と別れろとか、謝れとか、そういう感じのことばかりでした。私はまったく訳がわからなかったです。個人的に気分を害してしまったた人に対してはちゃんとお話をして自分が悪いと思えば謝ったでしょう。でもどうして大人数の人に旦那と付き合っているから謝らなければならないのか。私は、心のこもっていない言葉だけの 「ごめんなさい」 ならいくらでも言えるけど、と答えてしまいました。そうしたら一斉に生意気だーなんだーかんだーと収集がつかなくなっちゃった。

そこへ颯爽と現れたのが、旦那ではなくて(大笑)、美月でした。大勢で寄ってたかってひとりをいじめるなんてフェアじゃないと言ってくれた美月・・・。修羅場ながらあの美月は惚れ惚れするほど美しかったなぁ。忘れられないワンシーンです。美月はその場からも、精神的崩壊からも救ってくれたのです。

数年後、結婚をして旦那が亡くなった後、その時の人たちもとても悲しんでくれました。その時の頭だった女性にその時の感じたことを話したことがあります。あの時は大人数で怖かったし、平気な振りするのに精一杯でものすごく傷ついたんだよーと。それに対する彼女の答えは、 「あぁ、あれは若気の至り」 の一言でした。この時いじめの構造を見た気がします。加害者は忘れる。被害者は忘れない。忘れたくても忘れられない心の傷です。

 私のトラウマ話で終始してすみません。私のトラウマを思い出させる 『盤上の敵』 です。
これでは読んでいただけなくなっちゃうかなぁ。

『盤上の敵』 1999.9.10. 北村薫



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