酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2000年このミステリーがすごい! にランクインをした 『MISSING』 、昨年の 『ALONE TOGETHER』、そして今年出た 『MOMENT』 と読み続けています。この人の文章は静かな音楽を聞いているような心持になります。なんとなく凛とした静謐な感性がとても好ましい作家さんです。淡々とした中のやさしさもとても好ましい。
さて、このたびの 『MOMENT』、少々おびえながら読み始めました。舞台が病院で末期患者さんがたくさん登場するからです。どうしても腎臓癌で若くして死んじゃった旦那のことを思い起こさずにいられないかしら、と思ってしまって。だいじょうぶでした。泣いたり、過去に引き戻されたりしませんでした。むしろあの日々の中でも旦那と静かに生きたことが小さな優しいさざなみが押し寄せてくるように思い起こされ、嬉しくなりました。 あんなせつない限られた時間の中でさえ、笑顔も確かにそこにあったから。
ある病院で、末期患者の間に語り継がれている噂、死ぬ前に願いを叶えてくれる人間が現れるv 笑ってしまうでしょう。それじゃまるで現代病院版必殺じゃないか(笑)。でも本当に叶えてあげようとする青年がいる。この青年が、できる範囲で願いを叶えようとしますが、依頼人も一筋縄ではいかない病人ばかり。 死に際の人間っていったいなにを思うのでしょう。私は死ぬ間際になにを願うのだろうなぁ。
「FACE」 「WISH」 「FIREFLY」 「MOMENT」 の4つの物語がリンクしながら、静かに流れていきます。 私が一番好きなのは、「WISH」 です。 悲しいのですが、少女の弱さや強さや憧れが綺麗。 物語の最後には、 ‘噂の真相’ と言うものにたどり着きますが、ものすごく問題提起だと思いました。 ネタバレなので、これ以上書けませんが、秋にふさわしい物語です。是非読んでみてくださいね。
「まあ、どうでもいいけどな。でも、あんまり余計なものは背負い込むな。お前、最近険しい顔してるぞ。 気づいてないかもしれないけれど、お前の頭は偏差値ほどには良くはない」
とても素敵な言葉だったのでおまけですv
『MOMENT』 2002.8.30. 本多孝好 集英社
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