ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2002年04月16日(火) レディ スパークリング ディスティニ―
 何時か来るであろう世界滅亡のときに備えて、いろいろと準備をしよう。
 ビョウ子にわたしは呼びかけた。と、ビョウ子は大きな目をさらに大きくして笑った。
「あんたバカじゃないの?世界滅亡?何いってんの、やっぱあんたっておもしろいねー」
 猫みたいだから、ビョウ子。ようするに、猫子。好きな歌手はビョーク。まるで呑気な奴。
「ねぇねぇ、あんたの予想だとその世界滅亡の日ってのは、いつやってくるの?ねぇねぇ」
 判らないから、備えなくてはならない。そんなの、当たり前じゃないか。バカはお前のほうだ。と、わたしがまったく当然であり、常識的な観点から見ても程よい罵倒を含めた知的な言葉を投げ掛けてやったというのにビョウ子は依然として阿呆のような面構えでわたしの方を見ている。
「大丈夫だって!すくなくともあたしたちが生きてる間は来ないよ!ほんと、ねぇもう、なんだろうねぇ、あんたってば」
 なんだろう、などといわれても返答の仕様が無い。わたしは竹内リョウヤである。
「大丈夫?あんた頭よすぎておかしくなっちゃったんじゃないの?」
 嗚呼わたしの頭脳レベルはついに一般人には理解し得ないところまで来てしまったというのか。おかしいなあ。わたしの売りは親しみやすさなのに。わたしは夢想した。新宿駅中央南口前の、大きな横断歩道の所に選挙カーのようなものを設え、その上に立ってマイクを力強く握り締め、演説しているわたし。世界滅亡というのは、いつかはやってくるものなのです!皆さん、今すぐに準備を!ところが下賎で低俗、識字率も全体の人数の一パーセントを切ったような国民(のなかでも東京都民という一等おかしな奴ら)は「あははー、何言ってるのかわかんなーい」などと言い、カラオケデパートゲーセンライブハウスといった、世の中の何の役にも立たぬ施設へと嬉々として向かう。途方にくれるわたし。
 と、わたしの現実的かつ危機感に溢れる想像を打ち砕いたのはビョウ子の甲高いなかなか魅力的な声であった。
「ねぇえ、リョウヤ、あんたなに考えてんの?ほんと、バカみたい。大丈夫だって、世界滅亡なんて来ないから。ね。ノストラダムスだって大はずれだったじゃん。ねえ、そんなこといってないで、遊びにいこうよ。カラオケ行こう」
 カラオケ?そんな低俗なものなど!と、わたしは嘆いた。
「ねえ、リョウヤ、あんたキャラ変わってない?昨日までは普通にカラオケとか行ってたじゃん。それに何?今日は制服のブラウスのボタン上までぴっちりしめちゃって。茶髪も黒く染め直しちゃうし。一人称も俺からわたしになってるし。キモいよ」
 わたしの過去のことなど言わないでくれ!確かにわたしはつい先日まで一般庶民として世間の汚いヘドロに塗れて暮らしてきた。が、気付いたのだ。このままではいけない。なんとかしなくては。そして思考も論理的になり、身だしなみも整えたというのに!
 かたやビョウ子。
 米国人などでもないくせに金髪で、醜い足を見せびらかして歩いている。なんということだ。
 と。そのとき。
 校庭のほうでものすごい音がした。ごごご、というようなががが、というような岩と岩がぶつかり合うような音だ。これは、世界の終わりだ!ついにきたのだ。わたしはみんなに知らせまわるために叫びながら廊下を走り回った。
 と、A組の前でわたしを呼び止めるものがあった。
「リョウヤー、お前ぇなにやってんだよ。あたまおかしくなっちまったのか?なにが世界の終わりだよ。単なる工事の音だろ」
 爆笑の嵐。みながみな口を大いに空け、頭の悪さをアピールする大会ででもあるかのように笑っている。
 工事、か。
 そうか。
 わたしなど必要でないのか。
 昼休みの教室。工事。工事。わたしから、俺に、戻ってしまおうか。低俗に塗れてしまおうか。
 ビョウ子がわたし、いや、俺の肩を叩いていった。
「リョウヤー、超うけるよ。マジ」
 そういうと、風船が破裂するようにビョウ子は笑った。ごわごわした紙のようなものを扇子のようにちらつかせる。







「帰り、カラオケ、行こうぜ」
 ぜ、などという語尾がまだ不自然であるが、わたしは俺に戻った。



 俺にとっての日常がぐるぐるとせわしなくめぐってゆく。


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