冒険記録日誌
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2021年05月13日(木) ギリシャ神話アドベンチャーゲーム2 ミノス王の宮廷(P.パーカー他/社会思想社) その11

 朝日がやさしく窓辺から差し込む。拙者はベットの上で、薄くまぶたを開いた。
 かたわらにはタイジアが、傍で横になっていた。拙者が目を覚ましたのに気がつくと、彼女は微笑んで拙者の唇に接吻をする。
 「ねぇ。あなた、自分が寝言をいうのをご存知?」
 「いや…?何か言っていたでござるか」
 旅の本当の目的を喋ってしまったのではないかと、少し不安になる。タイジアはベットから起き上がり、きらびやかな黄金の腕輪を腕にはめ、化粧台に座ると香料を顔にすり込み始めた。
 「あら、別になんでもないのよ。食事にいきましょうか」
 オリーブやブドウを軽くつまんだ後は、オプリスの誘いもあって、海にタイジアともどもボートに乗って漕ぎ出した。沖の波がやさしくなったところで、ボートを停止させる。
 船の中は広いのでしばらく寝転がっていると、オプリスが世間話しをしたがってきた。
 「まあね、僕は死人の悪口を言うつもりはないのだが」
 オプリスはそういって、ミノタウロスを生んだミノス王の妻の話しを始めた。
 彼の話しが本当なら、ミノス王の妻は相当にひどい人物だったらしい。なんとなく憂鬱な気分になって立ち上がると、ボートが揺れて拙者の体は海に落ちてしまった。
 ポセイドンの加護のおかげか、溺れることなくボートの淵にしがみついて、オプリスに引き上げてもらったが、服はびしょぬれだ。
 「大変!オプリス、早く陸へ向かって!アルテウスさんが風邪をひいたら大変だわ。早く宮廷に戻って着替えしなくちゃ」
 心配しなくてもいいと言ったのじゃが、タイジアは頑固に拙者につきそって、ミノスの宮廷まで戻ってきた。うむうむ、良いおなごじゃのー。

 「これで、いいわ。じゃあ、私も着替えるから、後で私の部屋にきて。おねがいよ
 拙者の着替えが終わり、今度はタイジアが自分の着替えに部屋に戻っていった。それにしても、タイジアの目はつややかじゃったな。
 「何をやっている。アルテウス」
 声がした方を見ると、ディプティスが自室の扉の影から手招きをしている。不審に思いながらも、老人の話しを聞くために近づくことにした。
 「タイジアの部屋にいくつもりか」
 「そ、それは拙者の勝手でござろう」
 老人は厳しい目で拙者を見据えた。
 「いかにもそうだな。しかし、わしがあんたの立場ならもうすこし慎重に考えるな。例えばタイジアがなぜそなたに接近したのか、などな」
 「それは拙者の魅力というものでござる」
 「そうか、ならばいい。それではなぜ、彼女がミノス王から高価な黄金の腕輪を与えてもらったのか、知りたくはないか。わしなら、なぜかと疑問に思うがね」
 そこまでいうと、ディプティスは部屋の扉を閉めてしまった。
 な、なんじゃと。
 ぬぬぬ。ディプティスとタイジア、どちらを信じるべきか。ここは重要な選択肢でござるな。

 「ツバメ殿。正直に話してくれ」
 ツバメとはタイジアの愛称である。拙者はタイジアの部屋で、静かに彼女に問いただしたのだ。
 タイジアは涙を流し、すすり泣きながら答えた。
 「ええ、ミノスからあなたの目的を探り出せと命じられたわ。本当は嫌だったけど、仕方なく。そうでなかったら、私しなかったわ。絶対に」
 緊張に耐えかねたのか、彼女はそこまで言うとわっと泣き出した。
 拙者がひしと抱きしめると、彼女は徐々に落ち着いてきた。
 「ここを出て行くわ。ミノスの怒りから逃れる為に、母のいるクレタ南部の羊飼いたちの所に帰るの。お願いアルテウス、私を許して。時々は私のことを思い出してね」
 悲しみにつつまれながら、拙者はタイジアの部屋を出た。
 食堂から昼食を知らせる鐘の音が聞こえる。食欲はないが、行った方がいいだろう。

by 銀斎


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