白日の独白
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2005年12月27日(火) |
本は眠る振りしているだけで、 |
電車の中では一番最初に僕の耳朶にピアスを開けてくれた女の子のことを考えていた。 多分さっきまで読んでいた小説の影響だろう。 気取った小説のようにして考えてみると、彼女が・彼女とのやりとりが・彼女に対する感情が、 するすると包帯のように引き出された。 そんな気取った小説のような言葉の羅列を、僕は割りと気に入っていた。
けれど書き始めたら、直に僕はわからなくなってしまった。 僕は彼女のことを書くべきなのか、僕と彼女と彼女の彼と彼女のことを書くべきなのか。 気付けばさっきまで其処にあった言葉は、閉館した図書室みたいになった。
今日実際僕はわざわざ途中下車して図書室に寄ったのに、冬休みで閉館していて腹が立ったという話。
現実に掛かりきりになっている時は僕は『世界』には行かない。 行けないということもあるし必要としない為に行かないということもある。 『世界』には上下も左右も時間も僕が規定しようと想えば出来る自由さがある。 ただしその自由さは勿論見せ掛けだったりする。 お陰で帰り道を見失うし見つけても酷い目に散々合うから危険だ。 所で宇宙における上下の問題って面白いですね。 それから。現実から逃げ出したい時は僕はよく『世界』に行く。 ピンポン。 現在逃避中。
「何度願った所で最初で最後だよ」 「知ってる」 「君に会いたくて夜中に目を覚ますだなんて傑作だね」 「そんなこと頼んでない」 「だって君だよ。君みたいな人間がそういう風に必要とされるなんて驚愕って言葉がぴったりだ」 「・・・・知ってるよ」 「ならもう何も考えなければいい」 「・・・・」 「もう一度言うよ。今後何度願った所で最初で最後だ」 「でも気持ち悪いんだ」
2005年12月21日(水) |
打破(或いは軌道修正)。 |
「 」と君が吃驚する位真面目な顔して言いました。 「 」と言って僕は笑った。うまく笑えただろうか。
こういうのって本当は好きじゃない。 それに考えてみたらルール違反だと想う。 だけど最近は定式化してしまっている気がする。 僕が語るべきは他の誰でもなくて、彼と、だ。
ふたりだけの話をはじめよう。
2005年12月20日(火) |
数分後に消える魔法。 |
どうしよう。 僕、やっぱり彼女のこと大好きみたい。 どうしよう。どうしよう。 恥ずかしくって読み返せないよ。 返事なんて書けないよ。 馬鹿みたいに君の言葉に喜んでる。
2005年12月19日(月) |
黒い水のようなものだ。 |
母がポストや掲示板を気にしているのは、其処に死んだ女性の手掛りがあると思ってのことらしい。 しかし死んだ女性が何処の誰であり、自殺の理由を僕達は知る必要はないし、またその立場にもない。 そして人が死んだことを知らない住人には、その事実さえ知らせる必要もない。 それが現実的であり現実だった。
そういった種類の情報の欠如は、母を少し苛立たせているようだった。 僕も母の苛立ちは理解できる。 けれど同じように苛立つことはない。 ぐにゃりとして担架に乗せられた死体を眺めた所で、何処まで行っても知らない人間なのだ。
無意識的に無感覚に無関係だと切捨てられる僕は、冷酷で共感能力や感受性の欠落した人間なのかもしれない。 或いは加速度的な現実にうまく適応する為に身に付けた対処法なのかもしれない。 母のような人間と僕のような人間のどちらが一般的なのかを僕は知らない。 例え僕が少数派であったとしても、僕は一向に変るつもりはない。 だからと言って安住できる訳でもなく、時々僕は寄る辺ない気持ちになる。 安全で清潔であると言われても、黒い水を飲むことが中々できないのと同じように。
安息を求めて来たのは知っている。 甘い言葉で誘惑したのは僕の方。 昔々一番大切な人だったから我慢できなかった。 手酷く壊したかった。 結局の所で僕は何をしたって赦される。 今でも僕のことを大切にしてくれるから。 責任感って大変だよね。 僕は謝らないよ。 絶対に。
目醒めて直ぐに硝子のコップで水を飲む。 鏡の中にある小さな違和感。 心臓の近くに開いた穴から水が零れ落ちていた。
「寂しんじゃない。虚しいんだ。」 「虚しいんだ。虚しいんだ。虚しいんだ。」 「拒否しないでよ。僕を受け入れてよ。」
僕の両手は最初から最後までキャンドルが揺れるテーブルの上。 耳を塞ぐことはできないことをあの人は知っていた。 知っていて、僕の耳の穴から入り込んで音もなく穴を開けて出て行った。 削り取られた僕の一部を、あの人は綺麗に食べ尽してくれたのだろうか。
一瞬間で脳裏を過ったのは「ヤラレタ」ということ。 そして次には僕の密やかな願望が現実化したのかと想いました。 僕はその場所が・・・陽の当らない三角錐を見下ろすのが好きでした。 図と地が反転したモノリス。最適な墓標。 横たわる僕を見に三角錐を覗き込む。 嗚呼、なんてことでしょう。 其処にいたのは僕ではありませんでした。 何故なら僕は最後にあんな格好は絶対にしません。 自分と他人の区別は意外と単純なようです。 急速に現実に引き戻され冷えた大きな目でじっと見詰める。 11階から飛び降りたのに血も流れずまるで人形のようでした。 人形。抜け殻。器。境界膜。開かれている?入口と出口? 彼女を彼女たらしめていたものは一体何処へ行ったのでしょうか。
書いては消して書いては消して書いては消してを繰り返す。 書くことがないのか書きたいことがないのか書けないのか。 不意に僕は言いました。「持て余している。」と。 そう。僕は持て余している。 では目線を変えてみましょうか。それで、はじまりは? 予め設けたのは少しの制約。それはかえって僕を自由にしました。 そうですか。それでは不自由を感じ始めたのは? わかりません。いいえ。僕はちゃんとわかっているはずです。 書くことがないのでも書きたいことがないのでも書けないのでもなく。 僕は・・・・でも何も言ってはいけません。言ったらまた動けなくなります。
彼女の隣にはいつも違う人がいた(彼女が好きな人も彼女を好きな人もいた) 僕には信じられない位沢山の人に彼女はいつだって公平だった。 僕は安心して彼女の隣に座った。
絶対条件:君は僕のものにはならないし僕は君のものにはなれない
隣の椅子にそっと手を置いて僕は呟いた。 「僕は自由でいたいんだ」 けれど吐き出された言葉は色味を変えて、僕の手を二度と椅子から剥さなかった。
半歩進む右足が地面につく一瞬間前の言葉の魔性。 人知れず抜き取られている言葉の辿る経路や終着点に対する想像力。 想像力の欠落が齎すのは刹那の快楽。 左足が地面を踏み締める時には後悔の念。 右足の刹那の快楽 ≪ 左足の後悔の念。 魔術的であるが故の終着点。 決して後戻りは出来ないのだ。
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