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2008年10月20日(月)










ちょうど穴があったので
穴があいていたので
なかにはいってみることにしたのだった
ちょうどそうしたいこともあったのだ

穴にふき込む涼しい空気が
まっ赤な耳には心地がよくって
覗かれないほどの深さもあって
足を伸ばして眠ることも出来たのだった
あたまを下げた格好になればさ

おばあさんの足、子どもの足
はじめは擦れてうるさかった
あたまのうえの足音でさえ
馴れれば可笑しくもなるのだった
あたまの尖った部分を削ってくれた
ざらつく手足も、棘々な胸も
だんだん丸くもなってきた

ちょうど穴があったので
なかにはいってみることにしたのだった
ちょうどそうした理由など
思い出しもしなくなるまで
穴のなかにもたれかかった
それが私、と言えるまで

そのうち気付くと可笑しいのだ
穴の壁にはそこらじゅう
顔、顔、からだ、涼しげな
穴とはぽっかり空っぽな
先客達で出来ていたと

耳をまっ赤に腫らした誰か、また
ふらふら近くを歩いてきたなら
どこか地面の下あたり
土の盛り上がったあたりから
陽気なジャズが聴こえてくるかもしれません