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2009年02月16日(月)
婚礼








ねえ、アナタ。

なんだい。

ワタシ、綺麗だった?

勿論だ。あんな美しい花嫁を僕はまだ見たことがない楊貴妃、クレオパトラ、ジャパンのオノノコマチを足して三乗してもまるで追っつかない傾城傾国三国無双の、否、君みたいな美しい花嫁を前にすれば地球上の他のどんな女性でさえ女性であること自体辞退したくなるであろう満天の星と月灯りを宿して地中海に眠る美の歴史の煌く秘密を湛えた麗しの宝石箱のような表現を試みるには文章力と語彙と舌滑の良さが全く足りないくらいに美しかったよ。嗚呼、僕はなんて幸せな男なのだろう。

ま、アナタったら。ワタシも世界一幸せ。それに素敵な結婚式になったし。
美しい島、料理、薔薇、花火、溺死出来るほどのお酒、来てくださった皆さん…。
アナタ、どうも有難う。ワタシ今夜のこと一生忘れないわ。

君が喜んでくれたなら、準備をしてきた甲斐があったというものだ。

あんな沢山の方々がお祝いに駆けつけてくださるなんて。
アナタ、とってもお友達が多いのね。

皆、親友なのさ。招待状も凝ってみたしね。一人ひとり、大切な思い出の写真を添えたり。

でも、皆さん顔色が少し…おとなしい雰囲気の方が多いのね。

皆、こんな遠い島まで来てくれたのだもの。少し疲れがでたのかもしれないな。

そういえば、皆さんの服の装飾は奇抜で面白かったわ。

気の利いた連中だろう。猿ぐつわと鉛付きの足枷。
皆揃って美しい花嫁様の奴隷に、という意味だったかな。
最近の結婚式での流行らしいが…そんなことより、君はもうおやすみ。
明日は朝早く、招待客の誰よりも早く出発して新婚旅行へ発つのだから。
寝不足はその深緑深紅入り混じる麗しい肌に毒だよ。

あら。そんなに早く出発する予定なのね。誰にも見送られないで?

なにせこの島にはあの船、一艘しかないからね。
さあ、紅孔雀布団を掛けてあげよう。ほら、
大蜥蜴の様な太く可愛らしいその尻尾もちゃんとしまっておいで。

おやすみなさい。アナタ。

おやすみ。

ねえ、アナタ。

なんだい。

ワタシ、綺麗だった?

勿論さ。あんな美しい花嫁は未だ嘗て見たことがないソフィアローレンダイアンレインイングリットバーグマン、ジャパンのスマコマツイを足して四百乗しても二桁は足りない青春期の若者の如く迂闊なる一瞥で時既に遅しのひとつの哲学とでも呼び得る情熱の業火の真上でやわらかな子牛の血肉に未だ一度として濡れたことのない白鳥の産毛、一雫の型を成す直前の朝露に菫、薔薇、椿、柘榴、曼珠沙華の花々をごっちゃ煮したかのような太古から幾千人もの貴族達の不倫物語を彩り続けた魔の接吻にも似た永遠の眩暈に襲われてしまうほどのヴィーナスbyボッティチェリ、モナ・リザbyダ・ヴィンチ、フェルメールの真珠少女すら三人揃って紅潮した顔を隠しながら一目散に逃げだしたくなる当世随一と謳われる華麗なる愛のマッタドールでさえ太刀打ちできないうちに串刺しにされそうなまるでまるきり化け物的な、以下、いい加減早送りしたくなるくらいに…。