初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2009年09月14日(月)
バスがくるまで








バスがもうじきやってくるまで
僕たちは停留所の横に立ってる
絵の具で作られたような画廊前の
坂道にだけながい雨が降っている

バスがやってこないそのあいだ
傘をさしたランドセルのビー玉が
坂道をころころころがっていく
窓が水槽になってひかってる

バスはまだやってこないけれど
反対側行きのならいくらでも到着する
僕たちが行くはずの方からやってきて
未来のことを置き去りにしたみたいに通り過ぎる

バスがまえにやってきたのは、もう
どのくらい以前のことだったのか
扉のベルが最後にカランと鳴ったのも
随分むかしのことみたいで

バスを待っているってことが
バスを待ってさえいれば
バスを待っているってことが
待ってさえいられるなら

手紙を何度も読み返しているうちに
手紙の文字が変わってしまうだとか
ほんの二、三文字ずつだけれど
きみのことばかり考えていたら

きみが見えなくなってしまったとか
バスがやってくるのを待つうちに
もう乗らなくてもいいふうになってしまったことだとか
でもそんなことって、あるだろう

バスはまだやってこないまま
最後の乗客を降ろして
車庫にはいってしまったけれど

僕たちは停留所の横に立ってる
きみが小さな石になってしまって
その上に傘をさしたままで
もしかしたら、はじめから

僕がひとりぼっちの樹だったこととか