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2009年09月21日(月)
つまりはどちらの










―ひどいな、まいった。
きみはおぼえていないだろうけど。

唐突で何の事なのか、
呆けたままの私を放っぽって
よれたスーツ姿の男は照れ笑い、苦笑いしながら話を続ける。

―夢の中できみと語り合うのが愉しかっただけだったのに。
急にいなくなっちゃうんだものな。
きみの夢の中だったものだから、閉じ込められちゃって。おかげで
きみがまた同じ夢にもどってくるまで待たなくちゃならなかった。

そうなの。
云われてみればずっと昔、そんな事があったかもしれない。
そんな夢を見た事が。
でも朝には仕事に行かなくちゃいけない、と思い出したのだもの。
夢は突然に覚めるものだし。閉じ込められたとして
責められたって、私のせいじゃない。知らない。

―でもよかったよ。だいぶ時間はかかったけれど、これで帰れる。
じゃあ僕はもう行くよ。そろそろ夜が終わる。

今朝は、そんな男の後ろ姿の夢で目覚めた。
それからまだ頬杖のままぼうっとしている。幾千時間が経っても。
仕方がない。
私が知らない服を着たまま、この
知らない部屋の中から出ようとして出られないのだもの。