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沙夜



 忘れたわけじゃない

Hくんから電話があった。


毎日奥さんが怒ったり落ち込んだりで、その度になだめているけど
『さすがに疲れてきた』と弱音を吐いていた。
離婚した方がいいのかなって考えることもあるらしい。
あと、金銭的なことでも苦労しているようだ。


「二人は似た者同志だと思うし、
 今まで出会った誰よりも愛し合って結婚したのに
 どうしてこういうことになっちゃうんだろうね」

「あまり好き過ぎるのも、いけないんだと思うよ。
 愛は憎しみに変わってしまうから。
 そこそこ好きくらいがいいんだよ」


そこそこ好き……。
奥さんのメールにも同じことが書いてあったっけ。



S子や私のことを良く思ってないということについても訊いてみた。


「僕、悪口なんて言ってないよ。
 きっとそういうことを言って、沙夜を僕から離したいんだよ。
 メールのことだって、僕には『沙夜さんの方から来た』って言ってたし」


え〜、わけわかんない。
離すも何も、くっついてないし!


一体誰の言ってることを信じればいいんだろう。
誰のことも100%信じ切れない。
まぁ、本人に『うん、君の悪口言ったよ』って言う人はいないだろうけど。


「もーさぁ、奥さんからメール来ても、返事しないでおくよ。
 私が絡むと余計ごちゃごちゃになってしまうみたいだから」

「うん、そうだね。無視しといて。
 携帯もチェックされちゃうしさー。
 こうして電話してるのに『してない』って嘘つくの嫌だから
 ほとぼりが冷めるまで、沙夜に連絡しないどこうかなって」

「あー、うんうん。分かったー」

「だからしばらく連絡しないと思うけど、忘れたわけじゃないから…。
 この電話の発信履歴も消すよ(笑)」



忘れたわけじゃない、か。


なぜかこの言葉にドキッとした。
私のことなんか忘れていいから、幸せになってよ。




2004年02月26日(木)
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