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2013年11月25日(月) 欧州遠征からW杯を展望する

サッカー日本代表第二次欧州遠征は、オランダ戦(2−2ドロー/11・16)、ベルギー戦(3−2勝利/11・19)の成績をもって終了。第一次のセルビア戦(0−2敗戦/10・11)、ベラルーシ戦(0−1/10・15)と比較すると、FIFAランキング上位国との対戦であるにもかかわらず、1勝1分け負けなし、2試合合計5得点と大健闘した。一次遠征が日本よりランキング下位国との対戦で2連敗無得点と散々なものだっただけに、日本代表復調、攻撃力向上といったメディア報道があふれた。

記録上はそのとおり。ブラジルW杯優勝国との呼び声も高いオランダと第三国での対戦でドロー、いま日の出の勢いのベルギーに完全アウエーで勝利というのは、日本の代表サッカーの歴史上、もっとも輝かしい成績の一つと言って過言ではない。記録上、2013年の第二次欧州遠征の好成績は、燦然と光り輝くものとなろう。

◎日本は1月弱で本当に変われたのか

第一次遠征であれほど低調だった日本が、わずか1カ月弱で急激に強くなれるのか――ミステリーと言って過言ではない。サッカーとはそんなものだ、という見方もある。そのときどきの試合において、出場選手のリズムが説明抜きで噛みあい、うまくパスが回り、シュートを打てば枠をとらえる、あるいは相手DFに当たって得点になったりもする。

逆に相手はクリーンシュートがバーやポストを叩き、あるいはGKのファインセーブに阻まれる。そんな場面が90分間続き、強豪相手に勝つこともある。だから、サッカーはおもしろい。サッカーと似て非なるスポーツがラグビーだ。ラグビーの場合、いわゆる番狂わせが起こることはきわめて少ない。ラグビー日本代表がオールブラックスと対戦して日本が勝つことは、おそらく、筆者の生存中はなかろう。

だから、日本がオランダと引き分けたことも、ベルギーに勝ったことも驚くにあたらない。オランダとの試合は、第三国での試合だった。ベルギー戦はベルギーの首都ブリュッセルであるから日本はアウエー。だから、本当に貴重な勝利であり、称賛に値する勝利といえる。

◎親善試合の利点を生かした日本

忘れてならないのは、この2試合が親善試合だったことだ。オランダ戦の後半、オランダ選手がどこまで突き詰めて試合をしたか不明だ。もちろんベルギーは真剣だったと思うが、公式戦――たとえば、W杯やユーロの予選とはマインドは違ったかもしれない。

つまり、日本がオランダ、ベルギーのどちらかとW杯グループリーグ同組になり、その初戦で当たった場合、試合の状況は大いに異なるだろうと想像できる。その場合、日本が必ず負ける、と言いたいのではない、ただ、相手の守備(マーク、タックル、プレス等)の様相は異なるだろうと。

オランダ戦の後半(日本は2得点)、ベルギー戦の90分を通じて共通していたのは、相手の守備の意識が低かったこと。日本はボールを思うようにキープできた。とりわけベルギーDF陣は動きが悪く、日本選手の早い動きとパスに振り回されていた。そこに日本の勝機が生まれた。

日本はフィジカルの弱さを運動量でカバーするサッカーを身上とする。日本にとって親善試合の利点は、選手交代枠が6名あることだ。6名の交代枠があれば、前半はディフェンシブに戦い、後半は豊富な運動量を使って攻撃を仕掛けるという作戦が功を奏しやすい。

◎公式戦で遠藤をどう使うか

MF遠藤が2試合とも、後半からの出場となったことが、このことをよく象徴する。モダンサッカーの場合、セントラルMF(ディッフェンシブ・ハーフもしくはボランチ)の最低限の役割は、相手の攻撃開始の芽を摘むところに求められる。日本のボランチ像といえば、やや後方で比較的ボールを自由にもちながら時間をかけて攻撃態勢を構築したり、前方にパスを出す役割を想像することができるが、そのイメージを否定しないものの、むしろ、身体をはって最初の守備をする仕事のほうが重要度が高い。だから、身体は屈強でなければならいし、粘り強く相手の攻撃態勢に入りそうな選手に当たっていく、精神力の強さ・タフさも求められる。

日本を代表するボランチ遠藤は、日本代表の中で最も非凡かつ才能豊か、しかも経験豊富な選手の一人。しかし、フィジカルが強いとは言えない。年齢的にもそう若くないし、90分間、守備を全うしながら攻撃を構築するポジションを完全にこなすには難がある。しかし、45分ならば、その力量は十分発揮できる。ザッケローニは、親善試合のレギュレーションを上手に使って、遠藤を有効活用した。そして、オランダ戦、ベルギー戦の2試合の後半において、試合を決定づける得点を遠藤は演出した。

◎日本の課題――ボランチ起用法、ミス、セットプレー

ということは、この成功こそが、すなわち日本の深刻な課題となる。公式戦では交代枠は3に減る。遠藤を90分間フル稼働させると、守備・攻撃構築のパワーは理論上半減する。後半になって疲労度が高まれば、遠藤の弱点=フィジカルの弱さは、致命傷となる可能性もある。遠藤を後半にまわせば交代枠は2となり、攻撃もしくは守備の活性化を図りにくくなる。

しかし、W杯グループ予選第1試合の最終選択としては、「遠藤は後半から」で行くしかないだろう。第二次欧州予選で掴んだ“勝利の方程式”なのだから。

日本の課題はそれだけではない。ベルギー戦の2失点のうち、最初の1失点(しかも先取点を与える)がGKのミスで、2失点目がセットプレー。どちらも日本の長年の弱点であり、修正されていない。ベルギー戦先発の日本の正GK川島はどちらかというと、精彩を欠いていた。故障が完治していないのではないか。

W杯本番では、身長の高い欧州勢、アフリカ勢は、日本に対して空中戦を仕掛けてくる。ペナルティーエリア内でしっかり相手をつかまえないと、セットプレーで致命的失点という場面も大いにあり得る。

◎中南米勢の厳しい守備にどう対応するか

中南米勢との試合では、彼らの堅い守備が日本の前に立ち塞がる。日本は中南米勢を苦手としているのだが、その理由の一つが相手の厳しい守備だと思われる。

2013年、日本はブラジル(コンフェデ杯)、メキシコ(同)、ウルグアイ(親善試合)に負けて、グアテマラ(親善試合)に勝った。4戦1勝3敗の成績だが、グアテマラ戦は参考にならないと筆者は思っている。

2012年はベネズエラ(親善試合)と引分、2011年はペルー(親善試合)と引分で、どちらも日本ホーム。日本ホームの親善試合でも、グアテマラ以外は負けか引分という苦しい結果に終わっている。W杯はブラジル開催だから当然南米大陸。日本が中南米勢と厳しい試合経験が少ないのが気がかりだが、もうこの段階では中南米遠征を敢行するのは無理。本番前に、できれば、アウエーでチリ、コロンビアあたりと試合を組みたかった。

W杯に出てくる中南米勢は守備が固く、ボール扱いは日本より上手。組織性に難があるものの、日本の攻撃陣が機能しにくい試合をしてくる。W杯グループリーグでは欧州勢、アフリカ勢よりも、中南米勢をより警戒しなければなるまい。そのあたりの対応策がとられていないことも、日本の課題となろう。


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