lucky seventh
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2005年02月13日(日) |
そうするしかなかった物語り |
選べる未来はいつも、ここからでは狭まったトンネルのように見渡せず、 まるで流されるように決めていた。 それでもいつのまにかどこか遠くを目指していたはずなのに、 行き止まりへとぶちあたってしまうのだ。
誰かの呼ぶ声に振り向いても、 それは条件反射であって本当は聞こえてはいない。 そうして、いつのもにかその声を聞こえないフリ、無視するスベを覚えた。
「海鳴(ウナリ)くんはいつもツマンナソウだね」
喫茶店の一角で、アイスティーにガムシロを入れながら 年のわりには幼く見えるような顔で、そいつは少女のように笑った。
「人生にツカレタって顔に書いてあるように、見えるよ?」
2つにくくったウエーブのついた髪、ばっちり化粧をした顔、 丹念に色づけたであろう指先に、 誰が見ても流行だという服に身を包んだそいつは、 そうやって自分を周囲に溶けこましながら、意味もなく笑う。 大学で同じクラスの仲間が、何も悩みがなさそうでいいなぁと言った笑いで。
「海鳴くんはとても素直だね」
私はそんな風にできないよ。
そいつは笑う。 そうすれば、誰も心配しないから。 そうすれば、誰も踏み込んでこないから。 そして、ほんの少しの望みにすがりつくように。 「笑う角には福来る」 そいったそいつは、いつもと違って恐ろしく真面目だった。 けれどその話しを聞きながら思い出したのはまったく別の、 おとぎ話しの『パンドラの箱』だった。 あらゆる疫災の後に残った希望。 しかし、それこそが最強災厄の疫災だと言ったやつがいた。 よく言ったもんだ。
「お前は可哀想な奴なのか?」
気が付けば、いつのまにか開けなくてもいい箱を開けてしまったのは いつだっただろう? 考えることが好きで、知っていくことが好きで、 そして、いつのまにか気付いてしまった。
「そんな言葉でニゲたくなんてないよ」
もがいて、抗って そいつは今も浸かりきることに躊躇する。 目に見えないソコに怯えて、 ソコに屈することをよしとぜす、頑に拒む。 強い微笑みだった。
「お前は凄いな」
止めてしまった自分とは違う。
けれど、そいつは首を振る。 それを認めるのを拒むように、 違うんだと確信するように、ごく一部の人にしかさらさない素顔で。
「オナジだよ。私も海鳴くんとオナジなんだよ。 ただ海鳴くんと私はチガウから、選択肢も選択もチガウんだよ」
だからこそ、お互いがお互いを羨ましくてしょうがない。 そいつにはできなかった選択肢の選択をもし自分ができたなら、と 人生にしたら、してればほど無意味なものはない。 選んでしまったものをやり直すことはできても、 その時に戻って選びなおすことはできないのだから。 理屈では分かっている。 それでも、できないからこそ人はよりいっそう思うのだ。
「だがら、お前は凄いんだ」
選びたかった未来に思いをはせる。 自分は好き好んでつまらない顔をしているわけじゃない。 本当につまらないのだ。 何もかもがつまらなく。 自分もそれ以外のすべても煩わしいと思うのに、 それを切り捨てるほど強くはなれなかった。 けれどそれを大切にできるほど強くもなれなかった。 なのに、目の前にそいつは笑ってすべてを切り捨てた。 いらないんだと、私は支えは作らないと。 素顔を曝さないことで、本当の意味で誰かを寄せつけることはしなかった。 仲の良い特定のグループの中に所属せず、 それでもそれを感じさせるようなことをさせやしなかった。 大勢の中で、そいつは独りだった。 誰かにすがりついてしまいそうな自分とは違っていた。
「お前になりたかった」
「私は海鳴くんにナリタカッタよ」
でも、もうそうするしかなかったんだ。
:::::::: すがりつく自分と すがりつか(け)なかった君。
1人で生きられない俺と 独りで生きていく私。
ナナナ
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