lucky seventh
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2006年03月14日(火) |
悪がそんざいする。だから、善がある。 |
彼女は最後の最期まで、貫き続けた。
:悪がそんざいする。だから、善がある。
白い、白い階段を昇り、そこに存在する寂れた空間。 断罪の間。 今日と言う日に、世界に平和がおとずれる。 1人の女によって世界は恐怖へ落とされて、 1人の女の死によって世界は平穏を取り戻すのだ。
両腕を後ろ手に縛られて、 煤けて見る影もないドレスを身に纏い、 女は屈強な男達にその顔を床へを押しつられていた。 凛として、人を寄せ付けなかったあの傲慢な表情の面影はもうない。 ただ疲れたように、なすがままに女は這い蹲っていた。 その身体から、力の抜けたその姿に語るに落ちたと 人々はあざ笑った。
「神よ。」
腰に美しい剣を挿した少女が声を発した。 光輝くその瞳、未来を見つめるその姿勢に人々は感嘆の声を漏らす。 まるで、ここで這い蹲っている女とは真逆のようだと。 そこまで考え、人々はそれはそうだろう。とかぶり振る。 神の娘と比較するなどなんと恐れ多いことをと。
「誓約ははたされました。審判を!!」
少女の声に、応えるかのように断罪の間のその中心部、 少女の目の前に置かれた白亜の扉が重々しく開いた。 真白い光が溢れ、辺りを照らしそこは白い空間へと変わった。 人々はどよめいた。 それは現在では『儀式』としてしか使用されておらず、 その石の扉はまるで一枚の石を彫っただけで、開くはずがなかったからだ。 けれど、そう。 それはまるで遙か昔、もうお伽噺でしか語られない『神の天秤』のようだった。 だが、それなら何と言うことか、 少女がこの世界の『柱』となる『贄』だとでも言うのか? あの気高く美しい少女の命と世界の命を『天秤』にかけるとでも言うのか? そうであれば、何とも美しく哀しい物語であろう。
人々の前に神が光臨した。
光あふれる扉の向こう側に誰かが立っていた。
`ご苦労でした`
高くもなく、低くもない それはまるで音の集合体のような不思議な音だった。
`よくぞナシトゲました`
少女はその言葉を聞いて、満面の笑みで微笑んだ。 しかし、その次の瞬間それは凍りつく。
`アマデウス`
その声に、 その言葉に、 地に伏せられた女が、花が咲くように微笑んだ。 少女は愕然とする。 何故、その名を呼ぶのか。 分からない。 分からない。 どうして、自分の名を呼んではくれないのか?
アマデウス その両腕を後ろ手に縛られて、 煤けて見る影もないドレスを身に纏い、 屈強な男達によってその顔を押し付けられた女。 世界を恐怖と混沌に陥れたすべての元凶。
`ワがムスメよ。ソナタを誇りにオモウ。`
扉の向こう側で その光に負けないぐらいの光で持って、 存在する誰かは、手を広げる。 いつの間にかアマデウスの拘束は解けていた。 歓喜震えるように立ち尽くすアマデウスは その言葉にはっとしたように、 その仕草に押されるように足を踏み出し、光の中へと駆け出した。
少女の真横を通り過ぎ、 瞬間、少女は行かせまいと女を掴もうと手を伸ばす。 しかし、その手はあっと言う間に空をきった。 扉は閉まった。 少女と人々だけを残して。
そうして、世に残る忌まわしき記憶の首謀者は死んだ。 すべての真実を隠蔽したまま。 世界に平和が訪れたのだ。 しかしそれは、あまり短く儚いものであったが。
アマデウス それは神に愛された者の意。 その身を『天秤』に捧げるほど、神を愛したものの名。
**************** 2005年04月05日(火) 塗り固められた正義と、それを貫く槍。 同シリーズ
ナナナ
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