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2003年12月29日(月) 愛しいと思うことがどうしてこんなに悲しいんだろう



どうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どうすればいい?

あの子が、家に。
あたしの目の前に。
彼女はいなくて、ただ一人で、あたしの目の前に。

あの頃の笑顔のまま、そのままで。
まるで過去に戻ったみたいだった。

「唯」

と。
ただ一言そう言って笑ったあの子を
あたしはまたどうしようもなく、愛しいと思ってしまった。

わかってる。

あの子はもうあたしを愛さない。

でも触れた指はとてもあたたかくて。
低い声はとても穏やかで優しくて。
涙を抑えるので必死だった。
抱きつきたい衝動をこらえるので精一杯だった。

「ただいま。」

と、少し悲しそうな笑顔で言うから。
あたしは何も言えなくて。
ただ、ただ、間抜けな顔で佇んでいた。

たわいもないことをずっと話した。

“高校どーすんの?”
“んー…S高かなぁ。MもS高にすればいいのにね。”
“え?MもS高に行けんの?”
“去年から学区制なくなったから”
“そっか。”

そういう会話がとても嬉しくて、悲しかった。
もう変わってしまった。
過去から引きずり出された気がした。
あたしは過去に戻ったわけではない、と。
もう何も元には戻らないのだ、と。
あれから何年もたって、その証拠に学区制は廃止された。
戻らないのだ、何も。

とても悲しくなった。
切ない、と思った。

愛しかった。

隣で笑うあの子がとてもとても愛しかった。

どうしてこんなことになってしまったんだろう、と。
心からそう思った。
どうして元に戻れないのだろう、と。
切なくて泣いてしまいたかった。

何度繰り返してもやっぱり思いは消えない。

何度も何度も忘れようとした。
でもあの子があたしの前に現れるたび、忘れられない、と思った。
悲しかった。
苦しかった。

愛しいのに。
こんなにも愛しているのに。
どうしてそれだけではいけないのだろう。

気持ちだけでは何も救えないし何も変わらない。
だとすればどうすればいいというのだろう。
目の前には愛しい人がいて。
手に届く場所に愛しい人がいて。
その人を愛しいと思うことがどうしてこんなに悲しいんだろう。


どうしてこんなにも涙があふれるんだろう。


愛してる。








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