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昨日の続き。 | 2004年12月12日(日) |
柔らかく光を弾く、緩くうねった金の髪と、春の空のような淡く滲んだ水色の瞳。 均整の取れた体格に常時穏やかな微笑を湛える口元と整った容貌と、世の女の子が夢想するような完璧な王子様像を体現する騎士はさすがにその表情を曇らせて、目の前で暗く沈む少女を見つめていた。 「あの、救世主殿?」 「…………ほっといてちょうだい。立ち直るのにちょっと時間が要るだけよ」 「はあ」 彼の爆弾発言のあと、蜂の巣を突付いたように大騒ぎする神官たちを脅して事の全容を把握した彼女は、かなりの高確率で姉が敵方に囚われているだろうという事実に果てしなく落ち込んでいた。 「あぁぁおねーちゃんどうか無事でいてー邪悪なんだか間抜けなんだか分かんないけど魔王とか言われてんだからろくでもないものに違いないわよね嗚呼どうしておねーちゃんそういう厄介ごとにすぐ巻き込まれるのよもう心配するこっちの身にもなってよあぁ何も危害加えられてませんようにっていうか魔王のヤツ、おねーちゃんに何かして御覧なさいただじゃおかないんだからぁッ!」 言い募るうちに感情が爆発したらしい暮羽は、がばりと立ち上がると虚空に向かって吠え立てた。 「――決めたわ。今すぐ成敗しに行ってくる」 「は? 今すぐ?」 「そうよ今すぐ。こうなったら善は急げよ、さっさと行ってくるわ」 騎士は戸惑って瞬きを繰り返し、彼のことなどそこらに転がる石像と同等だと思っている暮羽は神官たちに地図と交通手段を要求しに廊下に出て早足で歩き出した。 「うわッ、ちょっと待って下さいよ行動早いなぁもう!」 ぼんやりしていた騎士は急いで彼女の後を追うと、肩を掴んでその足を止めた。 「何すんのよ邪魔するんだったらただじゃ置かないわよ」 「いやそうじゃなくて。魔王を倒しに行くことには賛成ですけど、救世主殿、あなたはまだこちらに来て日が浅い。少しはこちらの世界のことを学んでから行かれても遅くはないのではありませんか」 「その間におねーちゃんに何かあったらどうしてくれるの」 「魔王は強大です、そんなところに準備無しで乗り込んでも姉君をお救いになれるとは限りませんよ」 それもそうね、と暮羽は納得してこれからのことを思案し始める。 騎士はとりあえず彼女の無謀な行為を阻止できたことに安堵して深い溜息をついた。 が、その安寧はすぐ破られることになる。 「――ねぇ優男」 「はい?」 「魔王のところまで遠い?」 唐突な質問の意図を掴めず首を傾げたが、素直な彼は素直に質問に答えた。 「そうですね、早馬でもひと月とみて下さい。普通に馬で行くとなると二、三ヶ月ぐらいかかりますよ」 「じゃあこっちの世界の常識とか力の使い方とか、移動しながら覚えることにするわ」 「……は?」 固まる騎士をふんと鼻で笑って、救世主は倣岸に言い放った。 「こう見えてもあたし頭良いの。暗記も得意だし応用も得意。運動も苦手じゃないしね? 魔王がどのっくらいのヤツなんだか知らないけど、あたしの敵じゃないわ!」 おーっほっほっほ、と女王様もかくやという高笑いを上げる少女についていけず、騎士は疲れたような溜息を零して床に膝をついた。 壁に寄り掛かってぽつりと呟く。 「なんでこんなひとが救世主なんだろう……」 ****** シスコン傲慢救世主と苦労人の騎士の珍道中という話になりそうです(遠い目)。ていうか最初はただのシスコンだったはずなのにいつの間に傲慢属性がついたんだろう……(ぐたり)。 |