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ふたりの聖女。 | 2005年05月09日(月) |
「はじめまして」 たおやか、という形容がよく似合う控えめな美貌の持ち主ははにかむように口の端を上げて一礼した。 その隙に神父が隣に立つ剣の聖女の脇を肘でつついた。 「ほら、こういうのを聖女っていうんですよ見習って下さい」 「うっさいわね黙ってなさいよセス。――はじめまして、神剣を預かっているエナヴィアよ」 囁き声に囁きと拳骨を返して、頭を上げたハイデラーデに彼女はにっこりと微笑んだ。 「……えぇと、そちらの方は」 「あぁ。セスよ。ヒラ神父」 「いえ、そうでなくて、頭を抱えていらっしゃるので……頭痛でも?」 「いえ平気です……あぁ、ひとに心配されるなんていつぶりだろう……!」 心配そうに彼の顔を覗き込むハイデラーデの手を取って、セスは感激に目を潤ませる。 すかさず彼の後頭部に再び手刀が打ち込まれた。 「手、離しなさいよ。困ってるでしょ」 「エナさん本当がさつだなぁ……僕此処に残っても良いですかね? っていうかどうか置いて下さいもうヤダこのひと」 ひりひりする頭をさすりながら、まなじりに別の意味で浮かんだ涙を拭ってセスは溜息を付く。 「仲が良さそうでいいですね、大地の御方は」 「コレと仲が良い……?」 鳥肌立つわ、と両腕を抱え込んだエナヴィアをハイデラーデは不思議そうに見やる。 「ちがいましたか?」 「違う」 「違います」 見事に重なった言葉に、彼女たちはお互いを厭そうな目で見て沈黙する。 素晴らしく息の合った否定に、ハイデラーデはころころと笑い声を上げた。 「ほら、よろしいじゃありませんの。私のところなんかもう頑固で厳しくって」 「誰がですか」 「ほら来た」 しかめっ面で彼女の背後に立った護衛に、ハイデラーデは僅かに眉宇をひそめる。 「もう少し愛想良くしたらどうなの?」 「愛想良く見えませんか?」 「見えないわ。さっぱり」 「……。それより、そろそろ室内にお戻りになったらいかがですか」 お茶を用意しておりますので、と彼は硬い声で告げ、返事を聞く前に彼女の背を屋内へ向けて押し出した。 「相変わらずひとの話を聞かないのね。――おふたりとも、中へどうぞ。この教会自慢の水を使ったお茶をご馳走致しますわ」 ****** ラブ主従モノと思いつつも自分で書くのとひとさまの面白い話を読むのとではえらく違うなぁと思います。ラブの欠片もないキャラばっかりだ。 ちなみにエナヴィアとセスは厳密には主従ではありません(しかし詰めていくほど女王様と下僕のようになるのは何故だろう……)(しかもセスの方が年上のはずなんですが確か)。 |