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No-Mark Stall *




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うた。 | 2006年04月01日(土)
木の葉からもれる、柔らかな日差しに眠気を誘われながらてくてくと歩く。

ふと、誰かのうたう声がきこえた。
聞き覚えのあるそれは、穏やかながら伸びやかに空に響き渡る。
視線をさまよわせてみると、木立の向こうに見慣れた人影があった。

彼女は、珍しく和やかな微笑を浮かべて芝生の上を軽やかに歩いていた。
紅を刷かずとも艶のある色をした唇が楽しげに歌を紡ぐ。
彼の知らない国の言葉の軽やかな旋律は、聞き覚えはないのに懐かしく感じられた。

大樹に寄りかかった彼女は瞳を閉じて、どこかにあどけなさを残しながらも色めいた表情でまた別の歌を歌い始める。

いつも大人びた静かな佇まいを見せる彼女が、こんな風に気持ち良さそうに歌を歌うことがあるのかと。
意外な面持ちでしばらくその様子を眺めていた彼は、不意に止んだ歌声にも気付かなかった。

「……」
じ、と彼女がこちらを見ている。どうやら誰かが聞いているとは思わなかったのだろう、照れているのか耳が赤い。
しまった気付かれた、と逃げようとしたときは既に遅く、彼女はこちらに向かって歩き始めていた。


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ギャップってすばらしい。
written by MitukiHome
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