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No-Mark Stall *




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逃亡中。 | 2006年04月07日(金)
あたしをあいしてるとかあいしてないとか、どうでもよくて。
ただあたしは、あなたといっしょにいたいのよ。
あたしがあなたをあいしてるだけ。

それでじゅうぶんじゃない?

*

「邪魔者は排除する。これ常識じゃない?」
さらりと流れる艶やかな黒髪をひとつにくくった少女はにこりと笑った。
けれど、兄に似た繊細な容貌に浮かぶ微笑はその柔らかさとは対照的に、ひどく剣呑で凶暴なものを感じさせる。
「……落ち着けよ、エチカ」
彼女の隣に並ぶ少年は、うんざりした様子で鞘に収まったままの剣を肩に載せた。
「だぁって、むかつかない? 腹立たない? 苛々しない?」
「確かにむかつくし腹立つし苛々するけどよ、だからって八当たんなよ。向こうだって仕事で仕方なくやってるだけだしよ」
「召使って大変ね」
赤い髪の少年は、ますます胡乱な目つきでエチカを見やった。
「……ホントお前ってお姫さま思考だよな」
「いいのよだってあたしホントにお姫さまだもの」
「へいへいこっちはしがない庶民ですよ」
「あら。アーウィーには這い上がって来てもらわないと困るわ、あたし」
彼女は小首をちょこんと傾げて少年を見上げる。
灰紫の瞳が碧の目をまっすぐに射抜き、彼は思わずうろたえた。
「何でだよ」
「だってあたしのお婿さんになってくれるんでしょ? 貴族の称号くらい獲ってもらわないと兄さまの面目つぶれちゃうし」
真性お姫さまのお言葉に、彼はがっくりと肩を落とした。
最後の一言さえなければ嬉しかったのに、と思う気持ちを殺して、彼はあからさまな溜息を吐く。
「……誰がいつお前と結婚するなんて言ったよ」
「あ、約束忘れるなんて男としてサイテー」
冗談と分かっているのに頬が引きつるのは何故だろうか。
襲い掛かってくる長身の男の急所を蹴り上げながら、アーウィーはそんなことをつらつらと考える。
「お前さぁ、言いがかりつけんも大概にしとけっつの。そして冗談ぐらい分かれ」
「あたし素直だもの、言われたことは言われたままに受け取るわ」
エチカも負けじと黒服の男の向こう脛を鉄板で強化されたつま先で蹴飛ばす。
「嘘こけワガママ捻くれおじょーさま」
別の方向から彼女に伸びてきた手を叩き落として、彼はそんなことをぼやく。
「あらひどいわあんなことしておきながらやっぱりあたしのこと捨てるのね!」
「誤解を招きかねない表現はやめろー!」
よよよ、と泣き崩れる真似をする彼女に、ついにアーウィーはぶち切れた。
「お前さっきから妙に絡みすぎ! 今そんな場合じゃねーことぐらい分かれほら後ろ!」
指摘を受けてエチカは胸元に隠した短剣を引き抜いて闇に投げる。
どす、と何かに突き刺さる音と呻き声を耳が捉える前に、彼らはまた駆け出していた。

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そういえば少年少女のかわいらしいカップルってあんまりいないなーと思ったり。
可愛いことは可愛いですが何かどうにも凶暴ですねこのひとたち。

プロット切ったり展開妄想したり。他にも書きたいものあるんですがさっぱりですorz
written by MitukiHome
since 2002.03.30