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プロローグ。 | 2006年04月08日(土) |
ばたん、と勢い良く扉が開く。 肩肘をついて行儀悪くお茶をすすっていた彼女は、む、と不機嫌そうに眉をしかめてそちらを見て、にっこりと慈母のような優しい微笑みを浮かべた。 「グラツィエラ!」 「そんなに慌ててどうしたの、リーチェ」 真っ青な顔で飛び込んできた少女を抱き留める。 「へ、へんなひとが」 「まあ! 何もされなかった? 大丈夫?」 「ううん、別にこわいことは何もされてはいないんだけど」 「大丈夫よ、ほらアリチェ、落ち着いて」 柔らかなローズブラウンの瞳をおどおどと彷徨わせる彼女は、結構人見知りをする性質だが、おっとりとしている性格と周囲が全て長年の付き合いのある人間のせいか、慌てることは少ない。 その彼女がこれだけ怯えるとは一体何事か、と彼女は思案を巡らせる。 きらきらと輝く星の河のような銀髪と、海のような深く澄んだ青色の瞳の美しい娘であるグラツィエラは、扉の向こうに現れた人影を見つけ、瞳を鋭く細めた。 「何の御用かしら?」 「此処は魔女殿の家、ということでよろしいですか?」 好戦的な眼差しに答える笑顔はひどく穏やかで、通った声も浮付いたところはない。 けれども、ぱっとグラツィエラの後ろに隠れたアリチェの様子を見て、犯人はこいつかと自然と目元が険しくなる。 「魔女なんておりませんわ。此処にいるのはただの村娘と薬師です」 「その薬師殿に御用があるのです。ご同道願えますか?」 「用件ぐらい仰ってもよろしいのではないですか? 理由も告げずに引っ立てていくように連れて行くなんて、都の騎士さまとも思えないやりようですわね」 ちくちくぴりぴりした皮肉にも動ぜず、暖かそうな灰色の髪をした青年はそうでしたね、とはにかんだ。 「これはどうも申し訳ありませんでした。こちらとしても少々焦っていたものでして」 グラツィエラはゆったりと腕を組み直す。 「それで、薬師に一体どのような御用事で?」 「……薬師殿にのみお伝えするようにとのことですので、あなたは席を外して頂けますか」 彼女はぴくりと片眉を跳ね上げた。 「……大抵、初対面の人間は勘違いするのですけれど」 「簡単なことです。あなたの手は整いすぎていらっしゃる。薬を扱う関係上、薬師の方の手は荒れることも多いと聞きますし。そのように貴婦人のような手をしていらっしゃる方が薬師ということは珍しいかと思いまして」 後ろで控えるアリチェが恥ずかしそうに俯いて頬を染める気配を感じながら、グラツィエラは不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「洞察は鋭いようですけど、気配りが全くといっていいほど足りない方なのね、あなた。アリツェ、こんな男の話なんて聞く必要ないわ」 ふるふると彼女は首を振る。 アリツェの手は確かにグラツィエラに比べれば荒れているといってもいいかも知れないが、それでも十分しっとりとして柔らかいことを知っている彼女としては、何だか友人を侮辱されたような気がして気分が収まらなかった。 なおも言い募ろうとする彼女を制して、アリツェは青年を見上げる。 「いいよグラツィエラ。本当のことだもの。……それで騎士さま、この薬師めに何の御用ですか?」 ****** 乙女ゲーっぽい導入を目指してみたり。 友人と仲が良すぎるのは仕様です。ええ。おんなのこの友情ダイスキ。 |