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この世は箱庭。 | 2007年08月26日(日) |
没落する世界のヴィジョン。 * この世のありとあらゆるものは、全て数値に置き換えられる。 膨大な計算でカタチを保つ世界。 その繊細な歪さに楔を打ち込むことが出来るのは、かたちのない、それ故に数値化して顕現させることが出来ない人間のこころだけだ。 「人間のこころは数値化出来ない、というのは何故ですか」 レポートを読んでいた女性がそれから視線を外し、目の前に座る少年をひたと見据える。 「正確には、数値化そのものはやってやれないことじゃない。言葉通り、解明出来てないメカニズムもまだまだあるから数値化出来ない部分も残ってるんだけどね。ただそれ以上に、その後のコンピュータ上での再現が不可能なんだよ」 先を促す視線に肩を竦め、彼は続ける。 「人間ひとりだけでも膨大なデータになるっていうのにそれを個々に再現していたら、たとえこの街の人口たった数万人だけだとしてもスーパーコンピュータが何千台と必要になるだろうね。それでも演算しきれない部分がぼろっぼろ出てくるんだからたまったもんじゃない」 「……演算、しているのですか?」 静かに切り込んできた一言に、彼は僅かに眉を上げ、おどけるように再度肩を竦めた。 「――さぁてね。この世界がコンピュータ上で実行されているプログラムなのかどうか、知っているのはそれこそ箱の外にいる使用者、神さまくらいのものじゃないかい?」 ****** ストックされ続けているネタの中で唯一のSFもどき。 |