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律。 | 2008年01月07日(月) |
「律という言葉を聞いたことはある?」 「そういうのにあたしがまっったく縁がないって知ってて言ってる?」 机の上に積まれていた本と紙の山をぞんさいに寄せて空間を作っていた彼はその言葉に肩を竦めた。 「まぁ言ってるけど。何ていえば良いのかな、僕なんかは教えられる前に感覚で理解してるから説明しにくいんだけど、要はモノの方程式みたいなものだよ。一に二を足したら三になるとか、水をかければ火は消えるとか、そういう世界の『法則』を僕らは『律』と呼んでる」 「頭の良いひとたちって難しい言い方好きよね」 手渡されたカップに口をつけながら、アマーリエは軽く唇を尖らせる。噛み砕かれたのであろう言葉は理解できないわけではないが、学問と無縁の生活を送ってきた身としてはどうしても拒否感を拭いきれない。 そんな彼女に呆れるでもなく慰めるでもなくツィレルは説明を再開する。 「続きいくよ。で、僕らの使う魔法……まぁ普通は印術って言うんだけどその辺の違いは今はおいといて、っていうのはこの律を弄ることだ。ここまでは問題ないよね?」 「うん」 紅茶をくーっと一息で飲み干し、隣に控えていた妖精にお代わりを要求しながらアマーリエはぞんざいに頷いた。 「勿論人間にもこの律は存在する。基本的にはだれも同じ律だ」 「まぁヒトによって違ったら神殿は商売上がったりよね、それぞれに合わせてお守りとか作るわけにもいかないし」 「微妙に現実的な視線からのご意見ありがとう。で、ここからが問題だ。人間は基本的にには同じ律。ということは?」 「例外があるって言いたいのね? 正直まわりくどい」 「……まぁ当然、人間を構成する要素は肉体だけじゃないからね。物質的な律の他に、目に見えない精神としてのかたち――律が存在する」 自分の手元のカップを揺らしつつ、ツィレルは淡々と説明を続ける。 「律って複数持ってたら矛盾したりはしないの?」 「君って頭良いんだかバカなんだか分からないよね。肉体と精神、両方でひとつの人間を形作るわけだから影響はしあうけど、作用するモノが違うから心配は要らない」 「で、その精神の方の律がどう問題なのよ?」 「基本的にこっちの律――特別にこれには『心律』って名前が付けられてるんだけど、これは個人で違うのか、それとも肉体側の律と同じように皆同じなのか正直なところ分かってない。今のところ一番有力なのは基本形の心律があって、それを微妙に変形させた個々の心律があるんじゃないかってところかな」 お茶請けのクッキーを手に取り、彼女はふぅんとやる気のなさそうな相槌を打つ。面倒なのはこちらもだと言わんばかりのしかめ面でツィレルも菓子をかじった。 「そういうわけで、心律は下手に弄ると何がどうなるか分からないという理由から基本的に精神に作用する術は禁止されてる」 「基本的に?」 「基本的に。僕も心律弄るのは嫌いなんだよね」 「ツィレルの好みはどうでもいいけど、それで本題は?」 ぱきんと小気味の良い音を立てて割れるクッキーをむさぼる少女に、彼は胡乱げな眼差しを向けた。 「……君、自分が何されたか分かってる?」 「えー? 売られて買われてしつけられて放り出されて拾われた?」 「またあっさり言うね。じゃあもう一度説明します。君は精神を弄られてここにやってきました。心律は下手に手を加えると何が起こるか分かりません。さて、この二つの事実から推測できることは?」 澄ました顔で紅茶をすする彼にじっと視線を向け、心底嫌そうな顔で彼女は呟いた。 「……それってつまり、あたしの心律とやらに異常があるってこと?」 「よくできました」 ****** 設定煮詰めてますぐつぐつ。 図形を使って術を云々という設定は失敗したなーと思いますが他の世界での魔法とあまり被らせるのも嫌なのでこのまま突っ走る気でいます。どこまでいけるか。 後日談の話もまとまりつつあるんですが前の話に手直ししないとどうにもならない状況です。ああああ自分のアホ。 |