ハニワ在ル...はにわーる

 

 

埋めよっ、か。 - 2002年06月30日(日)

Syrup16gのインストアを観にいった。
こないだのワンマンは、どうにも人が多かったのと
五十嵐氏の痛々しさだけが印象的で、「あんなもんだよ」と
言われてもなんだかよくわからなかったけど。
結局今度もよくわからなくて、とても感傷的な文章ですよ…


『幽体離脱』のPVが流れて(本当に幽体離脱してる映像なのだ)
3人が登場。ぱらぱらとコードを奏でながら、即興で語る。

「暇って言っても…時間が暇なんじゃなくて、
頭ン中が暇なんだ。君との関係が、暇なんだ。
だからその暇を、埋めよっ、か。」

埋める―

ステージから現実を突きつけられ、
突き放される絶望感を味わわされるのだと思っていた。
埋められるものは暇でしかなくても、
それが埋められるなんて思いもしなかった。
埋められたって、それがなんだっていや、それまでだけどさ。


単純に言葉が多かったせいか、この間よりも
観客側にいっぱい触手が伸ばされている気がした。
声もギターも素人目にわかるほど調子は悪く、
ハズシまくっていたのだが…それでも、
自分で作った詞さえところどころ壊しながら、
観客たちとの暇な関係を必死に埋めようとしてる気がした。

調子が悪ければ悪いほど足掻いているようにも見えて、
この人のステージは本当に痛々しい。
ドラムが比較的安定しているのもあるんだろうけど。
MCでも、腹が痛いとこぼしていた。
そういえばワンマンの前には、新幹線で
天むすを吐いたって言ってたっけ(苦笑)

それで、こんな話。
「Syrup16gっていうバンド名は…
オレ喘息で咳止めのシロップばっかり飲んでたのよ。
そしたら、見えないはずのひいじいちゃんが見えて
…あんまり飲みすぎないほうがいいぞあれは。」

ただの蜜ではない、甘苦くて幻覚を呼ぶ蜜。
薬になるか…幻覚になるかは、飲む人間次第ってこと、か。

泣きたいだけ。金八の最終回だけを観て。Syrupの歌を聴いて。
泣きたい気持ちになりたいだけ。と、彼は言った。
それだけ。それだけ?
でもそれで、埋まっていくから。


ラストはワンマンのときと同じく『ハピネス』だった。

ねえ そんな普通をみんな耐えてるんだ
ねえ そんな苦痛をみんな耐えてるんだ

この空間で渦巻いたたくさんの普通と苦痛が、実は「みんな」のもので。
だから、不幸もハピネスだろう…と気づく、終わり。
終わりにふさわしい、終わり。


アンコール。
「ここにいる人たちはcoup d’Etatを
買ってくれたってことだよな…君たちは正しい。」
と言いながら、また即興に入る。
歌を売って生きる自分たち…それを2950円+消費税で買った私たち。
本当は正しいのかどうかわからない…

「でもその時、声が聞こえたんだ」

声が聞こえたら神の声さ
声が聞こえたら神の声さ

売るものも買うものも、ただ歌に導かれただけ。
本当に求められる歌なら、売り買いなんてシステムの問題だからさ。
ワタシは神ではないけれど、できるなら歌い続けてください。
埋めてください。


…インストアなりの軽いノリで観られないライヴだった、個人的に。
言葉の一つ一つに過剰に反応してしまって。

「OK?」もう帰っていいかと客席に尋ねる五十嵐氏。
アンコールを止めない客席。
「こっちは生き死にの問題なんだよ」と軽く逆ギレしてみせる。
それだけのものをみせてもらったから、ワタシはもういいよ、
と思ったけれど。
最後にもう一曲『汚れたいだけ』を演奏して、
ライヴはやっと終わった。

音は感覚として記憶の中へ残された。ワタシはもうひとつ、
記号として残された言葉の一つ一つを、忘れないでおこうと思った。
移ろい消える関係の暇を、埋められた証になりそうな気がしたから。




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