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2002年04月28日(日) 帰省 |
久しぶりに足を踏み入れたその家はとても小さかった。思っていたよりもずっと。それだけ時は流れたらしい。身長150cm未満の私にも。ベッドも部屋もそこにずっと住んでいる人たちもみんな。 そこで私は何をしてたかというと、夜8時には寝てしまう人たちの中に混じっていつも通りの生活リズムで過ごしていた。仕事、というのも憚られるようなやるべきことを結局そこにまで持ち込んで。怠惰なだけなのに褒められた。「遅くまで頑張ってエライねぇ」と。私はいつまでもその人たちにとっては小さな子どもだった。時は流れても関係は変わらずに。 彼が見せてくれたのは戦時中の彼の写真だった。海軍だったらしくセーラーを着ていた。面影は殆どなかった。アルバムの真ん中のページには写真を剥がした痕があった。そして終わりのほうには最近の彼と友人の写真。その中に彼女の姿はひとつもなかった。また彼が話してくれる彼の思い出や想いの中でも彼女が現れることはなかった。彼がおもむろにアルバムを机から取り出し話し始めたのはあまりにも突然だった。部屋には私と彼の二人きりだった。私は曖昧な笑顔を作っては私より若い彼の姿やその帽子の文字を目で追っていた。忘れない。忘れないで。 久しぶりに会った彼女も相当変わっていなかった。イメージというのは怖いもので。それでも彼は昔よりも彼女に優しくて、その仲睦まじい光景はより一層彼女の病弱になった体を映し出していた。歩くのも随分遅かった。それでも変わっていなかった、と言ってしまうことは私のエゴだろうか。 毎晩のおかずはいつも私が喜んでいたスーパーで買ってくる刺身の盛り合わせで、昔と変わらないはずなのに違って見えるのはそれ以外に方法が無くなっているから。だからといって私に何が出来るわけでもなく、冗談でお見合いやコネ就職を勧める彼女の言葉が唯一の方法であるかのように思えてしまうので慌てて聴こえないフリをして部屋に戻った、私の部屋ではないけれど。 遠いようで近かった。期待はずれの気温と曇り空が現実だった。それでいいと思った。 |
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