さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2002年12月05日(木) にゃん氏物語 夕顔11

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔11

『ろうそくをつけてこい 随身に弓の弦打ちして絶えず音を出せと言え
こんな人気の無い所で 安心して寝ている場合じゃない 惟光は?』

「いましたが 用事もなく 夜明けに迎えに来ると言い 帰りました」
こう言ったのは御所の滝口(詰め所が滝口にある宮中の警護人)
に勤める者だったので とても上手に弓弦を鳴らして『火の用心』と
言いながら 父である管理人の部屋の方に行った 源氏はこの時間の
御所を思った 殿上の宿直役人が名前を申し上げる名対面が終わり
滝口の武士の宿直奏上がある頃か と思う事から まだ深夜でない

寝室に戻り 暗がりの中を手で探ると夕顔は もとのまま寝ていて
右近は側でうつ伏せていた『どうした 気違いじみた怖がりようだ
こんな荒れた家などには 狐などが人を脅し怖がらせることがあるのだ
私がいれば そんなものには 脅かされはしない』と言い右近を起す
「とても気味が悪く下を向いてました 奥様は怖がってるでしょう」
と言うので 『そうだ なぜこんなに』と言って 源氏は手で探ると
息もない感じで 動かしても なよなよとして気を失っているようだ
子供のような弱い人だったから 何かにとりつかれて こうなってる
そう思うと源氏は溜息ばかりであった

ろうそくの明かりを持って来た 右近は取りに行ける状態じゃないので
ねやに近い几帳を引き寄せ『もっと近くに持って来い』と源氏は言った
主君の寝室に入るなどしたことがない滝口は座敷の上段にも来ない
『もっと近くに 何事も場所によりけりだ』灯を近づけてみると
ねやの枕元に 源氏が夢で見た容貌の女が見えて すっと消えた

昔物語に このようなことも書かれてるが 実際あったと思うと源氏は
恐ろしくてならない しかし恋人はどうなったか不安で自分がどうなる
という恐れはそれほどない 横に寝て『ちょっと』と起そうとするが
夕顔の身体は冷えていて 息は まったくないのである
頼りになる相談者もいない 坊様はこんな時に力になるがここにいない
右近に強がっていろいろ言った源氏だが まだ若い人なので
恋人が死んだのを見ると 分別も何もなくなり じっと抱いて

『あなた 生き返って下さい 悲しい目に私を遇わさないで下さい』
と言っていたが 恋人の身体は ますます冷たくなり すでに人でなく
遺骸であるという感じが強くなって行く 右近は恐怖心も消え 夕顔の
死を知って非常に泣く 紫宸殿(内裏の正殿)に出てきた鬼は
貞信公(藤原忠平の貞信公日記より)を脅かしたが その威力に
押されて逃げた例を思い出して 源氏は無理に強くなる事にした
 
『このまま死んでしまう事はないだろう 夜は声を大きく響かせる
そんなに泣かないで』と源氏は右近に忠告しながらも
恋人との楽しみが たちまちにこうなったのを思い 呆然としていた


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