流れる水の中に...雨音

 

 

Love Letter - 2002年06月17日(月)




夕暮れ時の並木道を覚えています。
木にとまる鳩達は ときおりはためいて
並木道から覗く空を飛び交っていましたが
もう夕映えのあとの薄暗い空には鳩の姿さえ影になって
木立と鳩が作りだす影の中を涼しい風に吹かれながら
歩いていたのを覚えています。

私の頭の中には ある女性の艶っぽい曲が
何度も繰り返し流れていました。
曲の中の女性は、バスストップにたたずみ
とまったバスに乗り込むと、その街に別れを告げる
そんな物悲しい気怠い日曜日の午後を歌ったものでした。

あなたは先を歩いていました。
くれかけた木立の中
私よりも数歩先を行き、タクシーを見て手をあげました。
この木立の静けさは 私には心地良く
耳にさわさわと触るのは 
まるですくいきれない気持ちの名残のようなもので
私の心に ほんの少しだけ波を起こすと
車に乗り込んだあなたと私から するりと逃げ出してしまいました。


沢山の季節を迎えました。
沢山の風を感じました。

暮れ行く街路樹が 風に擦れあって音を立てているのを
体で感じるとき あの時の風の感触と
あの時 頭の中を繰り返した艶っぽい歌詞が甦ってきて
私に切ない思いを齎すのです。


あの街角の店は今でも夜には オルゴール人形が出されていて
首を傾けて笑った 向かい側のお店は 今はもう
カフェではなく 携帯電話ショップに変わっています。

あの陽当たりのよい海に面したカフェは
テラスから随分先まで埋め立てられ 海は遠くなってしまったし
海際の地中海料理の店は閉鎖になり
並べられていたクラシックカーも どこかに移されたみたい。


いろんなものが無くなって いろんなことが変化して
沢山の時間が流れて
それでもやっぱりあの風の音を聞くと
私はあの並木道でのことを 思い出してしまいます。


あのとき 
あの瞬間に
一番大切であった人へ。









...




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