流れる水の中に...雨音

 

 

お菓子の本は子守歌。 - 2003年02月23日(日)



歳の離れた姉は 毎月送られてくるお菓子作りの本を
本棚に並べていた。
姉が家を出るときに それらは本棚に置き去りにされ
そしてその本棚ごと 私へ引き渡されることになったのだけれど
私はそこに並べられた本たちを 一冊一冊手に取りながら
姉がそこに残していった意識の残骸を感じ取っては
懐かしく感じていたりした。
まだ小学校3年生だった。

独りきりで眠る夜は 私にとって淋しいものだった。
皆が寝静まった真夜中 私は部屋の明りを消し
枕元のライトだけをつけて ベッドのなかで
その本棚に残されたお菓子の本のシリーズを
一つずつ開いては写真を眺めながら 読みふけった。
それは私の子守歌のようなものだった。

そこには 艶のある美しいキャンディーや 
ココアパウダーのほろ苦いアマンド・オー・ショコラ
幾筋もがぐるりと丸く取り巻くトリュフチョコレート
バターの香りが流れ来るようなサブレ
甘いものが大好物である私の好奇心をかき立てるような
そんな宝箱のような本たちだった。

独りの淋しさも 真夜中の静けさも 闇の暗さも
眠れない不安も 全て私から取り去り
温かなイメージの中で いつの間にか私は
眠りに就いていた。

 
眠れない今宵 久しぶりにその本に手をのばし
ページをめくってみるとそこには
あの頃私が それらに感じていた 
言葉に出来ない感情が溢れてきて 切なくなった。


 迷路の地図は 
 チョコレートに彫ってあるから
 ためらっていると 
 とけてしまう


チョコレートに彫られた地図を手に
今夜も眠りに就いてみよう。

明日には 何処かに辿り着いているかも
しれないから。


...




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