片桐さん。 - 2003年09月03日(水) 彼女の肌は不自然なほどにテラコッタのような色をしていた。 私は国粋主義者ではないけれど 日本と言う国も文化も好きである。 だからと言う訳では無いが 自分の国を捨てる人が あまり好きでは無い。 国を捨てると言うのは 少し激しい言い方だけれど 外国に渡り まるでその国の民族のような風貌や習慣を 不自然なまでに真似ているような人のことだ。 よく見かけるのは 外国で外国人の男性の隣を歩く 外国人のような日本人女性だ。 彼女達は 日本人ツーリストを白い目で見下したり あるいは まるで視野に無いかのように 徹底して無視したりする。 彼女たちこそ 日本人であるはずなのに。 ローマの女性は皆 焼けた肌をしていた。 露出度の高いワンピースは テラコッタの肌によく似合った。 ローマで出会った片桐さんも 彼女達のように 不自然な程 焼けた素肌をしていた。 私達はフィレンツェのガイドを片桐さんにお願いした。 彼女は東京芸術大学を出てから 数年後に結婚し 旦那様の仕事の都合でローマに渡った。 今年で7年になるらしい。 彼女のガイドはとても奥深く しかしながら整然と纏まっていて にわかに上っ面だけを覚えた歴史や文化の紹介とは 明らかに違っていた。 ヴェローナのオペラの話もした。 素敵なホテルや オペラの席の選び方なども教えてくれた。 彼女のお父様は研究者で やはり学会などで 家族で世界中を巡ったらしい。 「いつか日本に帰ろうと思っているんです」と彼女は言った。 芸術もオペラも愛する彼女だから きっとイタリアは 彼女の勉強にも感性にも与えるものは 大きいのだろうけれど どこか荷の重さのようなものを感じた。 日本に帰りたいんだろうなぁと思った。 彼女は空いている時間中 某かの本や新聞などを 読み続けた。 それらを読み終えると今度はイタリア語のテキストを取り出し 要らない紙の裏の余白を利用してライティングを始めた。 とても貪欲に そしてそれがとても体に染み付いているようにみえた。 研究者の家庭で育った彼女の姿勢のようなものがにじみ出ていた。 別れる時に1枚、写真を撮らせてもらった。 手塚理美に似た彼女は恥ずかしそうに髪を手で梳ながら 「こんなにボサボサなのに..」と困った顔をしながら 微笑んでくれた。 ローマで出会ったとても素敵な女性だった。 ...
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