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『優しい音楽』 瀬尾まいこ (双葉社) - 2005年04月21日(木) 瀬尾まいこは読者と“心のキャッチボール”が出来る稀有な作家である。 前作『幸福な食卓』が吉川英治新人文学賞を受賞、今後もっとも期待される作家のひとりとして将来を嘱望されている瀬尾さんであるが、今回もファンの期待を裏切らない作品を読者にプレゼントしてくれた。 今回の瀬尾さんからのプレゼントは短篇3篇が収められた短編集。 瀬尾作品を読むと他の作家の作品では味わえないような、幸福感を実感できるから嬉しい。 本作もご多分に漏れず恒例の“2回読み”を実施、2回目の読書がより“暖かいまなざしが培われた”気がするのだから本当に凄い作家である。 瀬尾さんは本作にて“寛大な心”を持つことの素晴らしさを教えてくれている。 3編ともに共通している点は“ストレンジな人物(設定)”の登場と瀬尾さんお得意の“食べ物効果”である。 いままでの作品に見られなかった“性描写”も盛り込まれており少しハラハラされた読者もいらっしゃるんじゃないかなと思う。 今までの瀬尾作品の中では月並みな言葉かもしれないが、もっとも“ハートウォーミング”な作品となっている。 表題作の「優しい音楽」、主人公のタケルと恋人役の千波、不思議な出会いで始まった2人の交際。 いっこうに両親に紹介してくれない歯痒さを噛みしめながら付き合いが続いていたのであるが・・・ 途中で事情がわかるのであるが、その後の経過が本当に微笑ましい限りである。 2編目の「タイムラグ」、この作品が個人的には一番のお気に入りとなった。 とにかく設定が凄い。不倫相手が妻と旅行、そのあいだに娘を預かることとなった主人公・深雪(みゆき)。 深雪と佐菜ちゃんとの心が触れ合っていく過程がとっても心地よい。 とりわけ佐菜ちゃんのおじいさんに会いに行く場面が印象的である。 『平太さんはほとんど家庭を放ったらかしています。お父様にこんなこと言うのは失礼ですけど、遊び歩いています。実は、っていうか、きっと、浮気だってしてます。決していいだんなさまとは言えません。浅はかで頼りにならない父親です。でも、佐菜ちゃんはこんなにしっかりしたいい子に育っています。どうしてだと思いますか?』 最後の「がらくた効果」も奇妙な設定の作品だ。 同棲中の章太郎とはな子。 年末も押し迫ったある日、はな子が佐々木さんと言う男性を連れてくる。 この作品が帯にある「だけど少しだけ、がんばればいい。きっとまた、スタートできる。」という言葉に当てはまり自然と読者も実感できる。 終盤、駅伝レースを見て佐々木さんの人生に対する決意が新たになる。 残された恋人ふたりの幸せを見守りつつ本を閉じた読者は“幸せをお裾分けされた”気分に浸れるのである。 余談になるがこの作品は5冊をプレゼント本として購入した。 一緒に瀬尾作品を読み、多少なりとも私なりに“優しい音楽”が奏でられたと感じている。 人生も瀬尾作品のように楽しく希望のあるものであるように努力したいものだ。 本作はきっと読者に“読書日和”をもたらせてくれる作品であると確信している。 価格もお手頃、是非手にとって欲しいなと思う。 最後に、私の拙い文章で十分に伝わらないのが残念であるが、心に響く物語を読み終えた今、「瀬尾まいこ、あっぱれ!」という最大限の賛辞を贈りたい。 評価9点 オススメ 2005年33冊目 ...
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