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『むかしのはなし』 三浦しをん (幻冬舎) - 2005年05月03日(火) 三浦しをんは末恐ろしい作家である。 子供の頃、誰もが読み聞かされた“むかしばなし(日本昔話)”を手玉に取っているのだから。 しをんさんの小説の特徴はエッセイなどで培われた“自由奔放さ”の中に“緻密”さを巧くブレンドさせている点であると思われる。 本作は構成内容において“したたかな緻密さ”が目立った作品である。 冒頭の「ラブレス」でいきなり読者を楽しませてくれサービス精神振りを披露。 なんとホストクラブで働く主人公が出てきてヤクザに追われるのである。 6篇の短編と1篇の中編から構成される本作は途中から“地球が三ヵ月後に大きな隕石と衝突し、滅亡してしまう”いう話が盛り込まれてくる。 実は三浦さんが描きたかったのはこちら(生と死がテーマ)のほうではないかとは容易には想像出来るのであるが、むかしばなしは小説を描く上での手段に過ぎないような気がする。 最後の中編「懐かしき川べりの町の物語せよ」で“はなしが一気にヒートアップ”するのであるが、ここに出てくるモモちゃんという高校生ながらのっぴきならぬ人物の描写が秀逸である。 私たちが小説を読んでいて“ハッとする瞬間”があるのであるが、最後のはなしというかモモちゃんという人物そのものにそれが凝縮されている。 本作においてはいわばしをんさんが語り手で読者が聞き手である。 「かぐや姫」「浦島太郎」「桃太郎」など、かつて読み聞かされたむかしばなしと比べて欲しい。 内容は大きくアレンジされているが主題は今も昔も変わらない。 私なりには“生きることの尊さ”を童心(むかしばなし)に戻ってもういちど読者に考えて欲しいのだと捉えている。 実はしをんさんの小説は『私が語りはじめた彼は』と本作のまだ2作だけである。 彼女の全体像を語るには時期尚早なのは否めない。 しかし読み手によっては“しをんさんならこのぐらい書けて当たり前だ”と思われる方もいらっしゃるような気もする。 彼女の潜在能力の高さを示していると言えよう。 ただ、“小説って進化している!”と感じさせる数少ない作家のひとりであることは間違いない。 小説を読む楽しさを読者に余す所なく伝えてくれる希代のエンターテイナー、三浦しをん。 “三浦しをんはまだまだ発展途上である!” 大いなる期待を込めた言葉で締めくくりたく思う。 評価8点 2005年37冊目 この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2005年8月31日迄) ...
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