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『人生ベストテン』 角田光代 (講談社) - 2005年04月30日(土) 直木賞受賞作の『対岸の彼女』とは毛色の違った6篇からなる短篇集。 石田衣良さんの短編集に30歳以上向きの『一ポンドの悲しみ』という優しさに満ち溢れた作品集がある。 角田さんは石田衣良さんより読者に容赦はしないが(石田さんよりも辛辣という意味です)、まさに同じような年代の読者層をターゲットとした作品集だと言えそうだ。 石田さんの作品は“恋愛小説”というジャンル、角田さんの作品は“人生小説”という言葉で分類したいなと思う。 全体を通して時には切なく時にはユーモラスに描いている点が見逃せない。 角田流「Take It Easy!」という感じかな。 本作においては私たちの日常ではちょっと味わえないような人生における数々のシーンが演出されている。 登場人物はまさに個性派揃い。 「観光旅行」に出てくる喧嘩ばかりしている母娘。 「飛行機と水族館」では飛行機で知り合った女性にストーカー扱いされる男。 前半はどちらかと言えばユーモラスな感じで男性主人公の篇は滑稽感もある。 圧巻はラスト2篇。 表題作「人生ベストテン」を読みながら読者自身も自己の人生ベストテンを思い描きながら読まれた方も多いことだろう。 主人公は40歳間近、同窓会に出る前に自分の今までの人生ベストテンを振り返っているのであるが、1位と2位(失恋と恋愛成就)が13歳までの出来事であった。 誰しも若い時の思い出って大きく心に残っているのであるが、主人公のような生き方も切ないな。 主人公に幸あれ! でもやって来た岸田君って一体誰だったのだろう・・・ 「貸し出しデート」の主人公も悲惨である。夫以外の男しかしらない主婦が翔という若い男とデートして心機一転をもくろむ。実は主人公は妊娠が判明、離婚の危機にさらされているのである。 2人の会話が面白い。なんとデート中、産婦人科まで付き合わされるのである。新しい生命が宿っている主人公が、多少なりとも勇気づけられて翔と別れるシーンは印象的であり、エールをおくって本を閉じた方も多いんじゃないだろうか。 角田さんは読者の期待を裏切らない。 本作で読者にとっていろんな処方箋(いわば角田流スタイル)があることを示してくれた。 酒を飲んでストレスを解消するのも良い、しかしたまには本作のような角田作品を読んでストレスを解消するというのも効果絶大であると思われる。 何年か経って、自分の“人生ベストテン”を振り返った時に角田さんの小説を読んでいた時だと思い起こすかも知れない。 今や角田さんは読者の背中を押してくれる当代随一の作家だと言えそうだ。 評価8点 2005年36冊目 この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2005年8月31日迄) ...
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