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『一瞬の光』 白石一文 (角川書店) - 2005年04月28日(木) 本作の単行本が上梓されたのは2000年1月。 今までどうしてこの作品を手に取らなかったのだろう・・・ 読後の率直な気持ちである。 このレビューを読み終えた方、後悔させませんので是非手にとって欲しいなと強く思う。 確かに性別によって感じ方・受け止め方が違うかもしれない。 たとえば男性が読めば“共感”できる小説、女性が読めば“感動”できる小説と言えるかな。 世に男性向けの恋愛小説って少ないが本作は狭義では“男性向けの恋愛小説”とも言えそうだ。 過去に『対岸の彼女』を“現代に生きる女性必読の書”と評した私である。 本作を性別問わずに“現代人必読の書”と評したく思う。 女性読者からの主人公の生き方についての率直な御意見を聞きたいなと思う。 主人公は日本を背負って立つ企業の人事課長の橋田浩介38才。 外見も良く東大卒の高学歴、高収入で女にももてる。 3拍子揃った理想的な人物である。 一見、順風満帆に見える彼にも苦悩があるのである。 そこで2人の彼をとりまく女性の登場である。 20歳の短大生で心に病みを持ち続けている香折と、浩介の社長の姪である恋人の瑠衣。 彼女たちが意図的であるかどうかは別問題として、まさしく対照的な方法で主人公に“人を愛することの尊さ”を教え変えていくのである。 「浩さん、人の世話ばかりしていると自分の幸せ逃しちゃうよ。たまには思い切り他人に頼ったり甘えた方がいいって、いつも浩さんが私に言うことじゃない。なのに浩さんは、絶対、絶対誰にも頼らないでしょ。そんなの矛盾してるよ。きっと瑠衣さんにだって甘えてあげてないでしょう」 途中で仕事面において窮地に立たされる主人公。 企業の非情さと瑠衣の献身的な愛情が印象的だ。 白石さんは“渾沌とした今”を描ける貴重な作家である。 “人間”をというより“生き方”を描くのが巧みだ。 エンターテイメント性は弱いかもしれないが、読者に正しい生き方の道しるべを提示してくれる。 『日頃私たちって“打算”や“保身”という言葉にこだわりすぎていないだろうか?』白石さんの熱きメッセージだと代弁したい。 恋愛面にのみスポットを当てていたが本作は特に前半部分であるが企業小説的な要素も強いことを忘れてはならない。 賄賂・家庭内暴力・出世競争・企業内での派閥戦争もリアルに描かれている。 きっと男性が読まれたら“働く意義”をもういちど考え直せれるだろう。 男性読者として主人公浩介に対して共感出来る部分は多い。 後半、会社を辞めて“人間らしさ”を取り戻していく過程が圧巻である。 彼は働きづめできっとゆっくりと本を読む時間もなかったのであろう。 彼が心を癒され真の愛情に目覚めていくシーンがいつまでも脳裡に焼き付いて離れない。 最後に彼が選択したこと=彼の幸せなのであると強く信じて本を閉じた・・・ 評価9点 オススメ 2005年35冊目 ...
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