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『灰色の北壁』 真保裕一 (講談社) - 2005年05月08日(日) ![]() 灰色の北壁 真保 裕一 3篇からなる山が舞台の中編集である。 氏の代表作である『ホワイトアウト』のように犯罪小説ではない。 当然の如く男たちのロマンと矜持が熱く描かれている。 3篇に共通している点は女性が絡んでいる点。 そう、“山も愛し女性も愛した男たちの物語”である。 少しは登場人物の“情熱”を見習いたいものだ。 冒頭の「黒部の羆」は県警の山岳救助隊を辞め、現在は山小屋の管理人をしている“黒部の羆”と呼ばれる男が遭難した大学の山岳部員2人を助けるべく山に入る。 青春時代の苦悩に悩む2人の大学生の山での行動シーンがリアルで読者に訴えかける。 冬の登山ってまるで人生の分岐点の象徴であるかのようだ。 極限状態におかれた時にきっと人間の弱さや本性が露わになるのでしょうね。 最後にわかる展開(結末)も意外で唸らされること間違いなし。 ★★★★ 次の表題作となっている「灰色の北壁」が秀逸。 前述したロマン・矜持・恋愛がわずか80ページ余りにぎっしり詰まっている傑作である。 小説家の“わたし”が雑誌に書いたノンフィクションの部分(太字)と現在の部分の配置が絶妙である。 読者も太字部分の説明がわかりやすくて物語に容易に入り込めるのである。 亡くなった刈谷、刈谷の妻、御田村、御田村の息子の4人の心理描写の把握に読者は手に汗を握らずにいられない。 刈谷が山頂に着いた時の気持ちってどうだったのだろう。 そして残された者たちの現在の心境は・・・ 心の“葛藤”を想像しただけで武者震い物である。 願わくばもう少し味付された長めの作品とならなかったかなという気がするが贅沢かな。 ★★★★★ ラストの「雪の慰霊碑」は前2作と比べてややインパクトが弱かった。 息子が遭難して死んだ山に挑む父親、彼を追いかける死んだ息子の婚約者と甥。 展開的にはサスペンスフルなのだが、親子愛を描きたかったのか恋愛面を描きたかったのかちょっと中途半端な感は否めない。 というか出来すぎてるような気がした。 ★★★ 全体を通して地味であるが緊迫感のある作品集である。 前作が少し評判悪かった実力派作家・真保裕一の面目躍如の1冊だと言えそうですね。 評価8点 2005年40冊目 この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2005年8月31日迄) ...
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