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『蚊トンボ白髭の冒険(上・下)』 藤原伊織 (講談社文庫) - 2005年05月14日(土)

蚊トンボ白鬚の冒険 上
藤原 伊織 / 藤原 伊織〔著〕講談社 (2005.4)通常24時間以内に発送します。

蚊トンボ白鬚の冒険 下
藤原 伊織 / 藤原 伊織〔著〕講談社 (2005.4)通常24時間以内に発送します。

久々に藤原伊織さんの作品を手にとってみた。

氏の代表作であり直木賞作品でもある『テロリストのパラソル』に象徴される、アル中で過去を持った主人公(こういうパターンだと信じて読んだのである)ではないのには驚いた(笑)

本作の主人公達夫は正義感に満ちた20歳の水道職人である。
過去に陸上ランナーを目指して頑張っていたが、病気の為に断念するも毎日を一生懸命生きている普通の青年である。
タイトルにもなっている“蚊トンボ”、その名は“シラヒゲ”が冒頭で主人公達夫の頭に侵入、彼の筋肉を自在に操ることが可能となる。

なるほど若い主人公を据えることによって作品自体幅の広いものだと言えそうだ。
本作は読者にとって“贅沢な小説”に仕上がっている。
SF的な要素(非現実的な)から冒険小説として読むのも楽しい。
主人公が若い青年の為に蚊トンボとの会話がテンポよくってとっても楽しいこと請け合い。

またまた恋愛面においても読ませる。
恋人役でヒロインともいえる真紀子の存在である。
多少、2人の進展に不自然さもあるのであるが目をつぶろう。
勝気なヒロインと達夫との関係に酔って欲しいな。

あと、藤原さん得意の(というか本業ですね)経済小説的な要素も読んでいて面白い。

あとなんといっても脇役陣の多彩さを忘れてはならない。
素朴な青年が巻き込まれる闇社会の描写は読者を否応なしに引き込んでくれるのである。
隣人の“黒川”、ヤクザの“瀬川”、そしてなんといってもキレてる“カイバラ”。
過去の生い立ちや生き様、また随所に垣間見られる人間らしさ。
どちらかと言えば、今までの藤原さんの作風ではこちら(脇役陣)が“主役らしい”と言えそうだ。

とりわけ終盤のテンポの良さは圧巻である。
はたして達夫は真紀子を助けることができるのであろうか・・・
まるで読者が達夫に乗り移って冒険しているような臨場感。
捲るページが止まらない。


少し懸念しているのは、作者の筆力の高さが災いしてあたかも“欲張りすぎた小説”だと読者によっては捉えられる可能性があると言えるのかもしれない。
先に述べた贅沢な小説という表現と紙一重であろうと推測するのが率直なところである。

ラストについても賛否両論ありそうだが、私的には作者が達夫とシラヒゲとの熱き“友情”を語りたかったのだろうと解釈している。
現実にはありえないけど傷だらけで一心同体の達夫とシラヒゲ。

わずか3日間で培った友情の深さ。
是非とも学び取りたいものである。

本作はまさに“ハードボイルド・ファンタジー”の傑作である。

評価8点

2005年41&42冊目


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