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『魂萌え!』 桐野夏生 (毎日新聞社) - 2005年05月29日(日) 桐野 夏生 / 毎日新聞社(2005/04/21) Amazonランキング:3,407位 Amazonおすすめ度: ![]() ![]() ![]() ![]() 桐野さんの代表作と言われている『OUT』や『グロテスク』のような圧倒的なインパクトはないが、読者に希望を与えてくれている点は他作に例を見ず、作者の新境地開拓の作品だと素直に受け止めたいと思う。 正直、桐野夏生さんの小説を読んでいるというより、篠田節子さんの小説を読んでいるという感じだ。 なんと描かれているのは普通の人間なのである(笑) 主人公の敏子は59歳。 平穏な生活を夫と2人で過ごしていたのだが、冒頭で心臓麻痺で夫を亡くし未亡人となるのであるが、そこからのっぴきならない事実が判明する。 10年来、夫に愛人がいたことが判明するのである。 ただ、本作は亡き夫の不倫問題の是非を問うているのではない。 もちろん、悲しみに暮れる主人公の心の葛藤は垣間見れるが、小説としてのテーマとはなっていないのである。 私は本作をあえて“青春小説”と分類したく思う。ただし、“初老の方の”と但し書きがつきますが・・・ ある意味、長寿大国ニッポンの象徴的な作品だとも言えそうである。 とにかく、主要登場人物(57歳〜69歳の男女)が若々しい! ポイントは“寄る年波”にいかに対応して行くか。 自分らしさは失いたくないが、世間に順応して行くことも大切なのでしょう。 途中で塚本が敏子にかける言葉が印象的である。 僕はねえ、悲しそうな女の人を見ると、放っておけないんですよ。女の人は、みんなにこにこ笑ってなくちゃ。女の人にはね、幸せになる権利があるんです。そのために、男は身を粉にして働いているんだから。 桐野さんの凄さは若い年代の読者が読まれても十分に共感出来る点である。 どちらかと言えばたとえば荻原浩さんの『明日の記憶』のように老後の怖さを描いた作品ではないような気がする。 逆に、いつまでも若々しくと読者にエールを贈っているように捉えた。 まるで“第2の青春”を過ごすかの如く・・・ 内容的にはやはり新聞連載(毎日新聞)のご多分にもれず、“無難に書かれている”点は否定できない。 他作に見られる人間の奥底に潜む“悪意”は描かれていないが、じっくり腰を据えて考え楽しめるエンターテイメント作品である。 普段桐野さんの作品を敬遠されてる方には是非読んで欲しいなと思う。 印象的な登場人物は“風呂婆さん”の宮里。 主人公が家出してカプセルホテルに滞在する際に出会うおばあさんなのであるが、曲者である。 彼女のエピソードにはドキリとした読者も多いはず。 あとはやはり亡き夫の愛人昭子とのやりとりは面白い。 特にゴルフの会員権にまつわるシーンは印象的である。 あと、少し敏子の子供たち(美保と彰之)が稚拙に描かれてるのが残念な気もするが“自立しない子供たち”を巧く登場させている桐野さんの力量も認めざるをえない。 そうだ、女性が読まれたら“女の友情”ということも再考させられるのは間違いのないところであろう。 本当に主人公敏子をとりまく周りの女性が巧く描けている。 平凡な人生の中にもドラマがある。 ヒロインを演じた敏子に共感された方も多いはずだ。 いつもと違って寛容で前向きな桐野作品。 桐野さんの入門作としてはオススメの1冊と言えそうだ。 安心して読めます。 評価8点 2005年44冊目 この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2005年8月31日迄) ...
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