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『花まんま』 朱川湊人 (文藝春秋) - 2005年06月02日(木)


朱川 湊人 / 文藝春秋(2005/04/23)
Amazonランキング:5,263位
Amazonおすすめ度:
透明で懐かしく、悲しく優しい。
話の玉手箱


前々作『都市伝説セピア』が直木賞の候補に上がった時、正直なところ大変驚ろかされたものである。
しかしながら、読んでみて“何か他の作家とは違う独特の郷愁感を醸し出した作家の誕生”に喜びの声を上げた読者も多かったことだろう。

本作はその出世作ともなった『都市伝説セピア』の続編とも言えるべき作品集である。
ジャンルとしたらホラーとファンタジーとの融合という区分が適切であろう。
何と言っても舞台が大阪の下町なのが関西人にとっては嬉しい。

どの短篇も小学生が主人公で過去を懐かしみながら回想形式で綴っている。
死を題材としたものが多くて、自然と“生きることの尊さ”を再認識せずにはいられないのである。

どれもが甲乙つけがたい作品集なんだが、いちばんのお気に入りとなったのは「摩訶不思議」である。
「ええか、アキラ。人生はタコヤキやで」(中略)「冷めたら、いっこもうまくないやろ。アツアツ過ぎたら、口ん中が大ヤケドや。人生もそんなもんやで。お前にも、そのうちわかるわ」

この比喩表現と内容が見事なマッチング。
本作の中でひときわユーモラスで関西人的な発想の作品である。(ちなみに朱川さんは大阪出身)

全体を通して、地味な文章の中にもホロリとさせられたりする部分があり、とってもノスタルジックでかつハートウォーミング。
やはりそれぞれの主人公の子供(幼少)時代を通したフィルターで語っている為に、読者もあたかも自分の過去を遡ったかのごとく物語に入り込めるのである。
このあたりの“朱川ワールド”は本当に見事ですね。

ただ、若い方が読まれたら楽しめるかどうかは若干保証しかねます。
やはり本当に楽しめるのは三十路以上の方かな。
そうそう、“パルナス”(作中に出て来ます)を知っている人は楽しめること請け合いですよ(笑)

誰もが、好奇心旺盛で毎日を一生懸命過ごしたあの頃。
本作を読み終えた今、少し自分自身のフィルターを磨くことが出来たような気がする。

時代は個性派作家・朱川湊人のより一層の活躍を待ち望んでいるのであろう。

評価8点

2005年45冊目

この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2005年8月31日迄)


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