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『ささらさや』 加納朋子 (幻冬舎文庫) - 2005年06月11日(土)


加納 朋子 / 幻冬舎(2004/04)
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最新作『てるてるあした』は本作の姉妹編にあたる。
最新刊を読む前に読み返したのであるが、本シリーズ(“ささらシリーズ”)は“駒子ちゃんシリーズ”と並ぶ看板シリーズとなったと言っても過言ではないであろうと再認識した。

トリックもさりげなく描かれていてそれでもってハートフル。
加納朋子の描く世界は“ミステリー”ではなくて“ミステリ”である。
加納さんの作品のいいところは、読者にさりげなく「頑張れ!」とエールを贈ってくれている点である。
これは加納作品に共通していることと言えそうであるが、本作においては特に顕著にその特徴が表れているような気がする。

夫を交通事故で失って生まれたばかりの赤ん坊(ユウスケ)と2人っきりになったサヤ。

今回再読して、ちょっと表現がどうかなとは思うが、たとえばデビュー作の『ななつのこ』や本作なんかはいわば“名作”といえる範疇に入れてもいい作品なのかなと思ったりする。

通常、ミステリー作品って風化されるのが早いと言うのが一般的な見方であるが、加納さんの描くミステリって“何年経っても繰り返し読み返したい衝動に駆られる”独特の世界を構築している。
このいわば加納ワールドの心地よさは他の同じジャンルの作家の追随を許さないと言えるであろう。

私は熱心な加納ファンではないが、加納朋子の熱心なファンってきっと“気くばり上手な人”なんだと思う。

本作の主人公のように不幸があって配偶者が亡くなってしまった場合は稀有な例であろうが、いやがうえにも、私たち読者のまわりで現在生きている人間、例えば家族・恋人・夫・妻・友人・過去の恋人などを強く思い起こさせてくれるのである。

どんな形でさえあれ、支えられて生きている姿って健気で美しいなと思う。

個性派ぞろいの脇役たち、久代、夏、珠子、エリカにダイヤ・・・

彼女たちとの触れ合いを通して立派に自立して行くサヤ。
忍び寄る悪意に立ち向えたのは彼女たちとの友情を育んでいった結果だと思います。

私的には本作のテーマは“尊大な愛”だと思う。

ラストの夫のモノローグが特に素晴らしい。

さすがに胸が熱くなりますが、夫が作中で人物に乗り移った如く、“ささら”の地が夫に乗り移ったと読み取った。
そう、サヤが佐々良に住み続ける限り、夫はいつもそばにいるのであろう。
そのように感じれば感じるほど感無量となるのである。

少し男性読者側からの視点かもしれないが、2人の愛情を比べてほしい。
敢えて書きたいのは“亡き夫のサヤに対する愛情”の方がより勝ってたのではないかという思いが強いのである。

いや、女性読者が読まれたら逆なのかな。
男女間の心の機微ってむずかしいですね(笑)

読み終えたあと、はたしてサヤ親子はこれからどんな人生を送っていくのだろうかと考えてみた。
でもサヤって幸せ物ですよね。
成仏した後もずっと見守ってくれる人がいるのだから・・・

なんとも羨ましくて切ない物語でした。

評価9点 オススメ

2005年47冊目



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