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『ルパンの消息』 横山秀夫 (カッパノベルズ) - 2005年06月06日(月)


横山 秀夫 / 光文社(2005/05/20)
Amazonランキング:128位
Amazonおすすめ度:
時効まで1日、失われた青春を追う


帯にも書いているが横山秀夫の幻の処女作が遂にベールを脱いだ。
今は亡きサントリーミステリー大賞の佳作に入選した作品を改稿して上梓された本作。
ミステリー・兄弟愛・恋愛・青春すべての要素が詰まった期待を裏切らないエンターテイメント大作であると言えよう。

横山氏の作品を読むに当って読者は必然的に“格闘”モードに入らなければならない。
なぜなら横山氏の人間の奥底に潜む“葛藤”の描写の巧みさは本作においても存分に味わうことが出来るからである。

横山氏がこの作品の原型(敢えて原型と言う言葉を使いますね)を書かれたのは氏が33〜34歳ぐらいの頃だと思われる。
近作と比べるとどうしても筆が粗いような気もしないではないが、逆に高校生の描写シーンなんかはリアルに書けているような気がする。
題名ともなっている“ルパン”という喫茶店名も3人のイメージにピッタシである。

物語は1975年の“ルパン作戦実行シーン”(青春回顧シーン)と1990年の警察での取調べシーンが交互に描かれる。

とりわけ印象的なのはルパン作戦を実行した三人組の実行当時と現在(取調べ時)とのギャップである。
喜多・橘・竜見の15年前と現在とを良く比べて読み進めて欲しい。
話は少し脱線するが、たとえば本書を読まれて自分の15年前や過去の友人たちを回顧された方も多いのだろう。

一番のキーワードはやはり“時効”であろうか。
それは本作においてもまた、本作出版においても当てはまる。
何故なら、作中の時効(15年後)と同様、執筆されてから15年という時効ギリギリで上梓された本作、横山氏の原点的作品と本人もおっしゃっているが、“自信に満ちた1冊”であることは疑いのないところであるからだ。

内容は本当にてんこ盛りである。あの三億円事件も関わっていて興味が尽きない。
少し捜査陣のそれぞれの人物造形が稀薄なようなも感じられたのは、はたして私が欲張りな読者なのであろうか・・・
でも最後の取調べを担当した谷川と寺尾とのコントラストが印象的であったことは付け加えておきたい。

不満点を少し述べたが、個人的には横山氏のベスト3に入れたい作品である。
とりわけ先の読めない展開とラストの切なさは見事の一言に尽きる。
氏の警察小説を読んで“少し堅苦しいな”と合わなかった方にも本作は挑戦して欲しいなと思う。

正直、こんなクオリティの高い作品が1000円でお釣りが来るノベルズで楽しめるとは驚愕物である。
横山氏と版元の光文社さんに感謝の気持ちでいっぱいである。

本作を読み終えた今、横山氏の15年間を顧みた。
さまざまな苦労を経て本作が上梓されたに違いない。
氏の作品同様、まさに氏の15年間も"ドラマティック”であったと想像する。
ファンにとって嬉しいことは、少なくとも15年前から小説に対して“情熱的な姿勢”を貫いていたことが判明したことである。
それとともに氏の才能が正当に評価されている現在を心から喜びたく思う。

評価9点 オススメ

2005年46冊目

この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2005年8月31日迄)




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