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『てるてるあした』 加納朋子 (幻冬舎) - 2005年06月25日(土)


加納 朋子 / 幻冬舎(2005/05)
Amazonランキング:2,076位
Amazonおすすめ度:
日が照りながら雨の降る、そんな佐々良の町で
最高傑作
心温まる町、佐々良


前作『ささらさや』と同じく舞台は佐々良という小さな町。
主人公は照代という15歳の女の子。
前作のヒロインであるサヤをはじめ他の登場人物達は脇役となっているので、続編というより姉妹編という表現がピッタシであろう。

佐々良ファンである読者にとっては、サヤにユウ坊、エリカにダイヤ、そして久代さん、夏さん、珠さんのお婆ちゃんトリオとの再会は嬉しい限りだ。

『ささらさや』でいわば究極の夫婦愛を描いた加納さんであるが、本作では究極の親子愛に挑戦。

はじめ主人公にイライラして読み始めた読者が必ず納得して本を閉じる光景が目に浮かぶ。

サヤと照代を比べてみよう。
どちらも余儀なく佐々良にやってきたのである(前作は夫の急死、本作は親の経済的事情)が、年齢と性格的な面から悲壮感が漂っているのは本作の照代の方であろう。
おっとりしていてやや臆病なサヤとは対照的で、ひねくれていて負けん気が強い照代に当初辟易していたのは私だけであろうか・・・

はたして今後どのように進んで行くのであろうか?
めくるページが止まらないのである。

内容的には『ささらさや』よりずっとシリアスなものとなっている。

万人受けする作品かどうかと問われれば少し返答に困るというか前作に比べると劣るという気がするのである。
幽霊が出てきたり前作同様にファンタジー要素があるとはいえ、たとえば両親に対することなどの踏み込んだ描写については現代社会に対してメスを入れている点は見逃せない。

しかしながら読者にとってどちらが胸に突き刺さる物語かと言えば、本作のほうに軍配を上げざるをえない。

たとえば主人公照代と同年代女性読者がこの作品を手にとられた場合、かなり勇気付けられ癒される一冊であろうことは容易に想像できるのである。
いろんなことに悩み解決して行き成長する、まさしく若い時の特権である。

裏を返せば、私を含めて男性読者の大半は本作のような加納さんの世界を求めていないのかもしれない。
少し辛辣すぎる設定に驚かれた方も多いんじゃないかな。

逆に女性読者が読まれたら、前作以上の評価をされる方が多いような気がする。
ある程度の年齢を経た方が読まれたら、照代だけじゃなく久代や幽霊(誰かは読んでからのお楽しみ)にも共感できるのである。

自分の若い頃を思い起こしたり、あるいは自分の子供のことを思いやったりしつつ良い教訓となる一冊である。


作家にも勇気が必要である。
前作が『ななつのこ』などと相通じるメルヘンチック的要素が強い従来の加納ワールドであるのに対し、本作はかなり変化がある。
当然の如く、どちらも加納朋子であることには変わりない。

私の結論とすれば2冊とも読まれて加納さんの現在の力量を堪能して欲しいなと思う。
2作が表裏一体となって現在の加納朋子像をくっきりと浮かび上がらせてくれているといっても過言ではない。

一抹の寂しさもあるのであるが、逆に今まで加納さんの作品を敬遠されてた方にも是非手にとって欲しいなと強くプッシュしたい作品でもある。

悲しみを乗り越えればきっと幸せが待っている。
本作で照代が変化したように読者の心の中も素敵に変化していく。
加納さんの願いが読者に通じた証拠であると断言したく思う。

評価9点 オススメ

この作品は私が主催している第3回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2005年8月31日迄)

2005年49冊目




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