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『一千一秒の日々』 島本理生 (マガジンハウス) - 2005年06月26日(日) たとえ私が四十歳になっても六十歳になっても、海を見るたびに、初めて来たときに一緒だった長月君のことを思い出すんだなって。たとえ私たちがお互いを嫌いになって別れたとしても、その気持ちとは関係なく懐かしんだりできるんだね 本作は文芸雑誌「ウフ」に連載されてた6編と最後に「ダ・ヴィンチ」に掲載された短編1編が収録されている。 実質は連作短編集と言えそうである。 前作『ナラタージュ』で狂おしいまでの純愛を描ききった島本さんであるが、本作はライトな短編集に仕上がっている。 どちらかといえば青春小説として楽しむべき作品だと言えそうだ。 切なさと言うよりほろずっぱさを強く感じたのである。 「ウフ」に掲載された6編は大学生を中心とした男女が出てくるのであるが、全6編中3編が男性視点で描かれている。 大きく注目すべき点である。 「風光る」は女子大生である真琴が主人公。 長年付き合ってきた哲との別れの場面に遭遇。 続く「七月の通り雨」では真琴の高校時代からの友人である瑛子が主人公。 女の友情というテーマと言ってよさそうな内容である。 3編目から5編目までは男性の視点から描かれる。 今までの島本イメージとはちょっと違うが、巧く書けているのには驚いた。 「青い夜、緑のフェンス」では真琴たちのいきつけの店のバーテン鉢谷が主人公。大柄で少し引っ込み思案の彼と幼馴染の一紗との男女間の友情が描かれる。 「夏の終わる部屋」では鉢谷の友人の長月の恋愛模様が描かれる。コンパで知り合った操とのエピソードは本作の中では一番熱くさせられるシーンが待っている。 「屋根裏から海へ」では真琴のかつての恋人である加納が登場。家庭教師先での沙紀との交流を通して少しづつ変化して行き再び真琴と接近する。 6編目の「新しい旅の終わりに」は温泉旅行に出発する真琴と加納が描かれる。 最後の「夏めく日」は別物語である。 高校が舞台で、したたかな女子高生が描かれている。 遊び心満載の作品だといえそうだ。 全体を流れる心地よさは島本理生特有のものであろう。 少し吉田修一の作品に通じるものがあるかな。 登場人物は総じて不器用であり、その不器用さが共感を呼ぶという点において・・・ 登場人物は傷つき悩みながらも成長を遂げる。 島本作品に共通して言えることは読者にも成長や変化をもたらせてくれる点である。 たとえば既婚の読者が手に取れば、過去を懐かしんだり素直な気持ちを取り戻すことが出来る。 同年代の方が読まれたら・・・私がこの場を借りて書くまでもないであろう(笑) 島本作品には失恋の辛さを跳ね返すだけの大きな力が備わっている。 今を描ける作家として今後のさらなる成長を期待したいと思う。 2005年、ディープな『ナラタージュ』とライトな本作の上梓。 読者にとって島本さんの高き才能は大きな財産となった。 次はどんな世界に連れて行ってくれるのであろうか。 読者もひたむきな気持ちで接したいものである・・・ 評価8点 この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年2月28日迄) 2005年50冊目 ...
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