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『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎 (新潮文庫) - 2005年07月08日(金)


伊坂 幸太郎 / 新潮社(2003/11)
Amazonランキング:7,025位
Amazonおすすめ度:
「しゃべるカカシ」に違和感を感じ入ることもない
子供だましでない童話
一気に読めるミステリー


ご存知、今をときめく伊坂幸太郎のデビュー作。
文庫化にあたりかなり改稿されたとのこと。

伊坂作品はまるでトレンディドラマを観るような感覚で楽しく読める。
私は氏がもたらした読書離れに対する功績はとてつもなく大きいような気がするのである。

本作はデビュー作ながら、伊坂氏のもっとも得意とするところである“卓越した伏線張り”が堪能できる。
内容的にはファンンタジックなミステリーと言えよう。

仙台から少し離れたところにある100年以上も鎖国を続けている“荻島”に、コンビニ強盗を失敗し逃亡中の主人公伊藤は連れ去られているところから物語が始まる。

荻島に住む人々がなんとも奇想天外で度肝を抜かれる。
嘘つきの画家園山、体重300キロのウサギさん、島の規律として殺人を繰り返す桜など・・・

個人的には架空の島である荻島に住む優午という“カカシ”の幻想性と彼をとりまく奇抜だが憎めない人物と、現実に伊藤を追いかけるために手段を選ばない残忍な警察官・城山とのコントラストが一番の読ませどころであり、作者の弱者への暴力の否定に対する願いがこめられているような気がした。
シュールな世界の中に現実感をもたらせた作者の意図は読者に十分に伝わるのである。

余談になるが、作中に“名探偵”に対する定義的な表現があるのであるが、本当に的を射ていてドキッとさせられた。
やはり伊坂幸太郎は読者の小説に対する“世界観”を変える凄い作家である。

少し物足りない点を書かせていただいたら、やはり主人公(というか語り口)が個性的でないこと。
島に滞在して成長を遂げたとか、あるいは強盗を起こしたことの反省であるとか、また恋人静香とのもう少し詳細な過去とか・・・
前述した名探偵的な役割を担っていると解釈するべきであろうか・・・

結論として近作に見られる軽妙洒脱な文章も本作においては多少なりとも不完全なような気もするのであるが、その後の伊坂氏の見事な成長振りを実感するためにはやはり必読の1冊だといえそうだ。
あと登場人物がリンクするので古い作品から順に読まれた方がより楽しめるのも間違いのないところであろう。

私の感想には何の伏線もありません、あしからず・・・

評価7点

2005年51冊目


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