![]() |
『邪魔(上・下)』 奥田英朗 (講談社文庫) - 2005年10月07日(金) 奥田 英朗 / 講談社(2004/03) Amazonランキング:8,851位 Amazonおすすめ度: ![]() ![]() ![]() ![]() 奥田 英朗 / 講談社(2004/03) Amazonランキング:8,228位 Amazonおすすめ度: ![]() ![]() ![]() ![]() <平凡に生きることのむずかしさを痛感> 本作は奥田氏の初期の代表作と言える作品で大藪春彦賞を受賞、2002年度このミスの年間ベスト2にもランクインされている。 奥田氏の第2作かつ出世作である『最悪』と同様の犯罪小説であるが、本作には『最悪』のようなコミカルさや展開のスピード感はない。 どちらかと言えばシリアスかつ重厚な社会派要素的な作品に仕上がっていて、本作以降に奥田氏が進んだ一連の多彩な作品群とは一線を画するのである。 奥田氏の人物描写の的確さ(巧みさと言ったほうがいいのかもしれない)は定評のあるところであるが、本作における及川夫婦の描写は特に秀でている。 誰しもが持っているいる<弱さ>を見事に描写。 夫である及川茂則。 本作においては“だらしない人間”の象徴として描かれている。 もちろん犯罪に弁解の余地はないのであるが、共感とまでは言わないが少なくとも同情された方も多いのかもしれない。 彼が本作において重要な役割を演じていることは自明の理である。 彼の終始一貫した“寡黙さ”により、読者が身につまされて本を閉じるのである。 一方の妻である恭子、彼女の変貌振りは凄まじい。 彼女が茂則と結婚したことは不運だったのであろうか? 大半の読者はそう感じたことであろう。 本作において彼女の心の中が暴走し脱落していく姿は他人事ではないのである。 たとえば市民運動に必死に活動しているシーン、ラストの自転車での逃走など。 読者の脳裏に焼き付くのである。 まさに“追いつめられる”とは彼女のような人物を言うのだなと実感。 とりわけ子供のいる主婦の方が読まれたらその切なさに共感できることであろう。 残された彼女の子供達、不運かもしれないが決して不幸にはなってもらいたくないと切望する。 本作の少し難点をあげれば、もう一方の主人公である九野刑事の心の動きが及川恭子ほど巧みに描けてなかったような気がする。 犯人を“追いつめている”サイドの人間である九野刑事が実は“追いつめられている”という設定は面白いのであるが・・・ 奥田氏に対する期待の大きさの表れだと思って斟酌してほしい。 “人生はもはや綺麗事では済まされない” 本書を読んで得た大きな教訓である。 評価8点 2005年62&63冊目 ...
|
![]() |
![]() |