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『しあわせのねだん』 角田光代 (晶文社) - 2005年10月08日(土)


角田 光代 / 晶文社(2005/05)
Amazonランキング:105,808位
Amazonおすすめ度:
手ごたえなし・・・
単行本


<直木賞作家の家計簿>

小説という虚構の世界を紡ぎ出し読者に夢を売ることを生業としている作家にとって、“エッセイを書く”と言う仕事は果たしてどういうメリットがあるのか?

客観的に見て、作家にとってエッセイを書いて上梓するってかなり勇気のいる行動なんだろうなと推測する。
なぜなら私たち読書好きが抱いているイメージを損なう可能性もあるからだ。
しかし本エッセイを読んでみてそれが杞憂に終わることに気付くはず。
角田さんの人間的魅力が読者に十二分に伝わってくるからである。

内容的には角田さんがつけられている家計簿に基づいた題材。
各タイトルに必ず値段が入っていて、それにまつわる面白い話のオンパレード。
金銭感覚が庶民的なので身近に感じられた方も多いはずだ(私もそうです)

小説では味わえない“人となり”を感じ取れるのはエッセイの名人である“三浦しをん”さんと甲乙つけがたいところである。
ユーモラスであるだけでなく、洞察力が鋭いのである。
しをんさんのような爆笑エッセイではないが、一世代上の角田さんは自己の人生経験をもとに人生を振り返りつつ読者に指針を与えている点が素晴らしい。
角田さんと同年代の女性が読まれたら、愉快に楽しい読書のひとときを過ごせるであろう。
きっと何回も読み返したくなる本に違いない。
お腹がいっぱいになった気分で本を閉じれるのは角田さんのなめらかな文章を堪能したからであろう。

もっとも印象的だったのはお母さんとの旅行を語った「記憶 9800円×2」。
角田さんの熱き想いが伝わってきた。
本作は“天国のお母さんに捧げた1冊”だったに違いない。

この世界ももちろん弱肉強食である。
まるでプロ野球の世界と酷似していると言って過言ではない。
毎年毎年新人作家がデビューする。
出版社の出版状況もかつてほど多くなく、若者の活字離れにも拍車がかかっている。
もちろん出版社からの原稿(出版)依頼がなければ仕事が出来ない。
本エッセイにも書かれているが、仕事がない不遇の時代があったことをも吐露している。

だから本エッセイを読んで、ここ数年の角田さんの売れっ子ぶりが読者もわかるのである。

個人的にはラストの言葉が胸に響く。
ゆたかであるというのは、お金がいくらある、ということではけっしてないのだ

是非、座右の銘にしたいな。

現在の角田さんは締切に追われる毎日が続いているのであろう。
今日も朝8時から夕方5時まで公務員的な時間で筆を取っているのだろうか?
昼の食事は何にするのかな?
身近に感じられるのである(笑)

このエッセイを読んで角田さんの作品(小説・エッセイ問わず)をもっと読みたいと思われた方が多いことであろう。
熱きファンに支えられ、角田さんのきらめく才能の発揮はこれからも続くと信じたい。

評価8点

2005年64冊目


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