『わくらば日記』 朱川湊人 (角川書店) - 2006年02月25日(土) <作者の人生肯定的な語り口は読むものの心を和ませる。> 昨年、『花まんま』で直木賞を受賞した朱川さんであるが、本作でまたレベルアップしたような気がする。 読まれた方ならご賛同していただけると思うのであるが、他作よりキャラが立っている点が見事である。 前作『かたみ歌』と同時代の昭和30年代の東京が舞台。 前作は少しミステリー的な要素もあったが、今回は完全な連作短編集という形をとっており古いエピソードから順に語られている。 前作よりも楽しめた大きな要因は登場人物の人間関係の変化が楽しめる点であろう。 読み進めていくうちに少しづつ身近になっていく展開も読書の醍醐味だと言えそうである。 “千里眼”(人や物、場所などの過去が見える)の能力を持つ3歳年上の鈴音。 彼女の能力が導き描き出す人生の悲喜こもごも。 語り手は妹である和歌子。 若き乙女心を持ったふたり(鈴音&和歌子)のほろずっぱさと途中から登場する茜の人生の切なさがほどよくブレンドされている。 とりわけ、姉の初恋の編は涙なしには読めないのである。 作者の独壇場に読者は唸らされることであろう。 恋をする相手役の病気を知り戦争のことを思い出さずにいられない。 昭和三十年代と言えば戦争が終わってまだ十数年。 当時の真っ直ぐに前を見つめて生きていた人々に学ぶ点は多い。 朱川作品全般的に言えることであるが、この作品もご多分に漏れず、読者(というか日本人)に忘れがちになりつつある大切なことを思い起こさせてくれるのである。 それはやはり不況とはいえ、現代に生きる私たちは何と自由なことであろうか? 背伸びをせずに生きていくことの難しさを痛感した。 内容的には凄惨な話も盛り込まれていますが、物語を語る和歌子の若い巡査に対する淡い恋心のために姉の千里眼を利用したり、あるいは姉のことを気遣ったり・・・ 心が揺れながら語っているのは作者の心憎い演出であると言えよう。 その結果として、もっとも多感な少女期を一緒に過ごした妹和歌子の回想録ということで綴られた至上の“姉妹愛”が読者の胸に突き刺さるのである。 少し余談であるが本作の表紙の装丁の素晴らしさは内容に負けていないことも書き留めておきたい。 姉妹の純真無垢な気持ちを上手く象徴している。 物語の内容だけでなくいつまでも私たちの心の中に色褪せることなく残るであろう。 鈴音の千里眼の能力は人間の裏の汚い部分見ることが出来る。 作者は本作の鈴音というキャラを通して人生を肯定的に捉えようと読者に訴えている。 “自分の人生をないがしろにしてはいけない。” 姉妹の出生の秘密・姉の若死の秘密など、まだまだ興味が尽きないし読み足りない。 そう思って本を閉じたのであるが嬉しい情報も飛び込んできた。 続編の連載が始まっている模様である。 後年、著者の代表作として語り継がれるであろう本シリーズの刊行。 一日も早い単行本化を心から待ち望みたいと思っている。 評価9点 オススメ この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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