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『天女湯おれん』 諸田玲子 (講談社) - 2006年02月15日(水)


諸田 玲子 / 講談社(2005/12)
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<気軽に読めるエンターテイメント時代小説!>

週刊現代に連載されたものの単行本化。
読者層が男性サラリーマンにほぼ限定されている為に内容も娯楽作品に徹している。

舞台は江戸八丁堀の真ん中にある湯屋・天女湯。
ヒロインは23才の女将おれん。
この天女湯には表の顔(銭湯)だけじゃなく、裏の顔がある。
なんと男女の仲を取り持ちも行っている、男湯には隠し階段、女湯には隠し戸。どちらも裏の隠し部屋につながっていてまさに桃源郷の世界。

人情艶話・・・この作品を語るのにはこの言葉で十分であろう。
物語の設定からして読者層を強く意識しているといえよう。

たとえば他の作家が色事を描くと小説としての品が落ちると言えそうだが、作者が描くとより主人公が華やかに写る。

前半は辻斬り事件に対しての犯人探しに興味が尽きない。
おれんが惚れる正体不明の謎の武士が犯人かどうかにめくるページが止まらない。
後半は天女湯と大黒湯との長年の確執が描かれる。

おれんのまわりの登場人物も個性的で読んでいて楽しい。
のっぴきならない事情で働いている天女湯の人々の団結心の良さ。
岡っ引きの栄次郎の変化や小童の杵七の存在感。

少し無難にまとめたという感も拭えないが、なんとなく小説内の長屋の住人のひとりに加われたような気がしたのはアットホームな雰囲気が伝わったからだろう。
読んでいて胸を打つところって他作に比べて少ないけど、気軽にかつワクワクしながら読めること請け合い。

諸田さんも肩肘張らずに楽しく執筆できたような気がする。
匿った武士との恋はどうなるかという楽しみもあるのだけど、やや期待はずれかな。
他作に見られる狂おしいまでの女心の描写を得意とする作者の小説を希望される方には物足りないかもしれない。

特に女性読者の方の反応がどうであるか興味深い。
どうしてもおれんの“恋心”というよりおれんの“色事”にウエートが置かれているのは、男性読者を前提として書かれているからその点を考慮に入れて読み進める必要があろう。
事実、私もおれんの桃源郷での場面を楽しみにして読み進めたのである(笑)

おそらく作者にとって男性週刊誌への連載は初の試みだったに違いない。
新境地開拓・・・作家の冒険と変化に拍手を送りたいと思う。

女性雑誌に連載された『恋ほおずき』と合わせて読まれたら同じ作者の作品であることにハッとさせられ、それとともに作者の筆力の高さに驚愕させられることであろう。

評価7点


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