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『バスジャック』 三崎亜記 (集英社) - 2006年02月12日(日)


三崎 亜記 / 集英社(2005/11/26)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:


<すごく読み手によって評価の分かれるレビューアー泣かせの作品>

わずか3ページからなるショートショートから90ページ弱の中篇まで合計7篇からなる短編集。
大別するとSF系と恋愛系に分かれる。
とりようによってはバラエティに富んだ短編集とも言えるのかもしれないが・・・

デビュー作で直木賞候補ともなった『となり町戦争』で登場した舞坂町やとなり町を彷彿させる東都や南都という独自の地名がいくつかの篇に登場する。
非日常的な世界を描くのが得意な作家でまるで試行錯誤の時代を揶揄しているようだ。

個人的には「しあわせな光」「二人の記憶」「雨降る夜に」の恋愛系が印象的であった。
どれもが短いので読後に読者の空想に委ねている部分が大きいのであるが、独特の世界観を構築していることに気づいた。
男性作家らしからぬ“繊細さ”。
言い換えれば作者の誠実な人柄が文章に滲み出ているのである。
個人的には恋愛(純愛)小説の方に力を入れて書かれたらもっと能力を発揮出来ファンも増えるのであろうかと思うのである。

ここからは三崎さんに対する期待は大きいという前提で語りたい。

本作もデビュー作に続き賛否両論ある作品と言えそうである。
少なくとも本作で“個性的で不思議な世界を描ける作家”としての地位を固めたといっていいのであろうが、それが褒め言葉かどうかは読者によって捉え方が違うと思われる。
個人的にはアイデアの斬新さは認めるとしても、評価が分かれたデビュー作『となり町戦争』の二番煎じ的イメージがいつまでも脳裡に焼きついて離れなかったのである、少なくともSF系の作品においては・・・・

少し不満点を述べたが、星新一のショートショートを思い起こさせる「二階扉をつけてください」やバスジャックが社会的に認知されている世界を描いた「バスジャック」が他の篇より純粋に楽しめた方は(ちなみに私は逆でした)非日常の世界にドップリ浸かれたのであろう。
ちなみにSF系では私は最長の「送りの夏」が一番良かったです。
テーマは“死と人に対する思いやり”ということでしょうか。
テーマ自体が胸を打つというのはいつまでも印象に残りますよね。
でも、枚数が足りなかったような気もします。

その結果『となり町戦争』のようにディテールが十分に描けてない。
やはり基本的には長編で読ませて欲しい作家ですね。

評価6点

この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年3月15日迄)


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