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『陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂幸太郎 (祥伝社ノンノベル) - 2006年05月15日(月)


伊坂 幸太郎 / 祥伝社(2006/05)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:



<あなたも5人目のギャングになったつもりで読んでほしい>

現在、第1作である『陽気なギャングが地球を回す』がロードショー中であり、映画の評判も上々。
続編の本作が発売されたので早速手に取ってみた。

面白くて当たり前。
ここ数年、直木賞候補の常連にのし上がって来た伊坂さんに対して私たち本好きの期待は膨らむばかり。
伊坂作品も10作以上となった現在、エンターテイメント性においてこのシリーズに勝るものはないと思われる。
しかしながら、最近の伊坂氏の作品の中で顕著に表れている“メッセージ性”という点においては、この作品に求めるべきではないと思われるので心して読んで欲しい。

第1章のギャングメンバーそれぞれのエピソードが素晴らしい。
タイトルもそれぞれ洒落ていて読者にとって教訓的。
日頃の仕事振り(たとえば成瀬の公務員姿)などが垣間見られ、読者にとって意外な一面が演出されている。
この各エピソードが第2章以降に勃発するある事件に絡んでくるという展開。
期待に胸を膨らませて読んだのだが・・・

実は前作も読み返しました。
結果として本作は前作の素晴らしさを際立たせた作品と言えそうです。
ニュアンス的には前作は“痛快かつ爽快な作品”、本作は“痛快だけど爽快とはいいがたい作品”なような気がします。

なぜなら、軽妙洒脱な会話とストーリー展開の面白さが伊坂さんの魅力の2本柱なんだろうが、今回は後者においては少し平凡かなと思います。

ただし、他の作家と比べて言ってるわけじゃありません。
たとえばクドカンが書いた脚本と他の脚本家とのそれは比べにくいでしょう。
伊坂さんの場合、読者の好き嫌いは別として他の作家と比べられる段階じゃない(少なくとも同じようなジャンルの作家においてでは)と思われます。
もはやそういうレベルじゃない。
そのことが私のレビューの大前提です。

ちょっと伏線が多いというかひねりすぎているような気がしないでもない。
その結果として第1章が素晴らしすぎて第2章以降、落胆された方も多いんではなかろうか。

第2章にてお得意の銀行強盗が勃発、饗野の演説も堪能。
ただ第1章同様メインとなる話への伏線。

後の騒動はどちらかと言えば、スリの名人・久遠と演説の達人・饗野が中心。
ふたりの会話はとにかく面白い、これは前作以上で饗野のボケキャラがすこぶる心地よい。

問題点はここからである。
人質となった娘を取り返すところがポイントだったわけだけど、当の本人があんまり誘拐されている緊迫感がないのと、どちらかと言えば悪人の娘として登場している部分が読者にとってマイナスイメージだったような気がする。

前作の地道さんのようなハッとさせられるキャラの方が魅せられるかな。
いずれにしても、ギャングにつきものの仲間内において“軽い騙しあい”はあっても“裏切り”がなかったのが物足りなかった大きな要因のような気がする。

でも身構えて読んだつもりでも、柔道部員が出てくるシーンは面白かった。

あと前作から出てくるキーワードである“ロマンはどこだ!”のロマンについて自分なりの考えを記したいと思う。
本作の各編の真似をするようだが、ネット辞書で調べてみると・・・
1 「ロマンス」に同じ。

2 小説。特に、長編小説。

3 感情的、理想的に物事をとらえること。夢や冒険などへの強いあこがれをもつこと。「―を追う」「―を駆り立てられる」

もちろん3の意味合いで使っているのだろう。
銀行強盗を颯爽とさりげなく行う4人組に対してのスマートなフレーズなんだろうが(もちろん読者受けするということも踏まえて)
私的にはたとえば、前作で雪子が地道に対して持った助けてやろうという気持ちや、地道がパチンコ店に息子を助けに来た気持ちに大きな“ロマン”を感じたのである。
それに比べると、本作は全体的に希薄で安易なような気がする。
あと惜しいと思われるのはまぬけな誘拐犯2人の後半の行方が描かれていない点と誘拐された娘の父親(チェーン店社長)の存在感の無さ。
私って贅沢な読者なのかな。


意外と辛口となったが、現在人気ナンバーワン作家と言って過言ではない伊坂氏の作品が新書版で読めるというのは嬉しいことだ。
普段、図書館で借りられてる方も財布の紐が緩くなって買われた方も多いのだろうと思う。
版元である祥伝社さんと伊坂さんのサービス精神を称え、本屋に直行して伊坂ワールドにどっぷりつかって欲しい。

なにっ、買わなきゃ久遠さんに財布掏られそう(爆)
久遠さんが言ってるよ。
「たくさん買えばまた強盗します」って・・・

評価7点

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)



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