映画『世界の中心で、愛をさけぶ』

…泣きました。
顎からぼたぼた滴り落ちるほどの涙がとめどなく流れてきたので、途中からはもう拭うことはもう諦めました(苦笑)。
まだ映画を観ていなくてネタバレがイヤだ…という方は、ここから先を読むのはお控えくださいませ。

サクの現代と過去。律子の現代と過去。重蔵さんの過去から現代へと続く恋…。
律子が恋人の過去の恋愛の軌跡を辿ってゆく…という形で物語が進むので、律子がサクに縁のある場所を訪ねるたび、変わらない町並み(主人公たちが暮らした四国の海沿いの町は、とてもステキv)と、全く変わってしまった物との対比が面白かった。
個人的にウケたのは、ANAのトレードマークのデザインの変化だったりしますが(笑)。

冒頭、律子が家電ショップへ行ってウォークマンはどこかと訊くと、CDとMDがあると言われ、カセットテープ用のものが欲しいと答えると、店員さんが怪訝な顔をする…というシーンは、サクとアキが過ごした時代と律子とサクが生きている今との十数年という時間差が、とてもわかりやすく描かれていました。

また、ひとつひとつの場面に全く無駄がないんですね。しかも、過剰な装飾がない。必要なものだけがフィルムに収められている。
良い意味で(強調!)、一度映画を観ればもう十分…というか。つまり、観終わったときに「あのシーンには、どういう意味があったの?」とか「あのセリフ、よくわかんなかったけど」などという疑問や謎が一切残らない。全てが作品の中で語り尽くされていて、それ以上の解説を必要としない。
これは、観る者にとても優しい映画だと思います。ガイドやレビューを熟読しなくては理解できなかったり、何度も観ないと謎が解けなかったりする…というのは、個人的に好きではないので。(もちろん、面白かったから何度でも観たい…という積極的な感情なら大歓迎ですが)

たとえば、校長先生のお葬式でアキが弔辞を読むシーン。キレイでクールで泣かないアキ…というキャラクター、アキを見ているサクとの距離感が見事に表れています。と同時に、まるで何かを予感させるような涙雨が降ってくるあたりは、もうたまりません。
他にも。
突然失踪した律子を、偶然テレビのニュース画面で見つけるサク。しかも律子は、赤い車に危うく轢かれそうになっていた(…だけど、助かった)。空港へ向かった律子とサク。同じように四国を直撃しそうな台風29号で東京行きの便は欠航に(…だけど、次の便に乗れた)。
…次々と重なる過去と現代。過去のサクと現代のサク、過去の律子と現代のサク。だけど、ひとつひとつの結果は昔と今では全く違っていて。
そして、別々に流れていたはずだったふたりの時間の流れを結びつけるのが、アキの遺した最後のカセットテープ…。

サクのついた嘘が、後にアキの身に本当に起こってしまったこと。アキに手伝ってもらって重蔵さんの初恋の人のお骨を掘り出したサクが、後にアキの遺灰を手にすることになること。サクとアキが無人島で見つけた、誰が撮ったかわからないフィルムに記録されていたオーストラリアの土地を、後にサクとアキが訪ねようとして(叶わず)、だけど十数年後にサクと律子が訪ねること…。

サクとアキの恋愛だけでなく、そこに実は絡んでいたと途中でわかる律子を含めた三人の関係も、とても悲しい。
だけど、観終えて席を立ってからは、どこかのシーンを思い出してまた涙がこみ上げてくるようなことはありませんでした。それは、物語が作品の中できちんとおしまいになっているからじゃないかと思います。

大切な人を永遠に喪うことは、とても悲しい。もう二度と一人では生きてゆけないんじゃないかと思うくらい、つらい。
今まさに最愛の恋人を喪わんとしているサクの「助けてくださいっ!」という悲痛な叫び…。TVCMでもおなじみのあの空港のシーンでは、泣くどころか息が止まりそうになりました。

律子を追って写真館へやってきたサクが、重蔵さんに泣きながら打ち明ける胸のうち。忘れられないアキへの想いを、一体自分はどうすればいいのか…。忘れたい、と本人が望めば、ある程度時間の経過が手助けをしてくれるかもしれない。だけどサクは、アキのことを忘れたくない。あの痛みを忘れたくない。だから、苦しむ。

サクは、灰をまいたことでアキを忘れることにしたわけではない。重蔵さんの言った「後片付け」は、そういう意味ではないと思うのです。
とてもとても大切だった人のことは、忘れられるはずがないし、そもそも忘れる必要なんてない。ただ、自分の胸の中の収めるべき場所にちゃんとしまってあげること…それが重蔵さんの言った「後片付け」じゃないかと私は思います。

原作ではラストで少しだけ語られていた、大人になってからのサク。それをここまで深みのある物語に膨らませ、それでも原作の雰囲気を全く損ねていないというのは素晴らしいです。原作ものの映画化における、理想と言ってもいいかもしれません。
プラトニックだから純愛なわけではないし、幼い恋愛だから美しいわけでもない…。それでもこの作品が多くの人に愛される理由には、個人的にとても興味があります。

キャストについては…、もう最高ですね。
アキ役の長澤まさみさんの身体のラインの美しさには、ヘンな意味でなく(笑)同性ながらうっとり見とれてしまいます。こういう言い方は失礼かもしれませんが、水着になっても全然いやらしさがないのです。
清潔感…、ただそのひと言。顔だちも、キレイとカワイイがうまい具合にミックスされているし、何たって声がいい! 
サクとアキが交換日記みたいにやりとりをしていたカセットテープを、現代のサクや恋人の律子がウォークマンで聴くシーンが何度も出てくるのですが、ちょっと甘えたようなアキの声を聴いているだけでも泣けてきそうになるくらい丸みのある優しい声です。

現代のサクを演じる大沢たかおさんと高校時代のサクを演じる森山未來くんがよく似ていることは一目瞭然ですが(笑)、高校時代の友人であるジョニーも、男性にしては高くてよく通る声の津田寛治さんに合わせたかのように高校時代のジョニーを演じる男の子も甲高い声なのが笑えました(笑)。

ワンシーンくらいだけ(…だけど、とてもいい場面に)出演されている共演者の方も、天海祐希さん、木内みどりさん、森田芳光監督(役の上でも監督さん/笑)、田中美里さん、ダンディ坂野さん…と豪華。
原作ファンの方もそうでない方にも、お楽しみいただける映画だと思います。
2004年05月23日(日)

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